弁護士の佐野です。
2021年に改正された民法(相続法)が、2023年5月に施行されます。
今回は、相続財産管理人と相続財産清算人とについて解説したいと思います。
目次
1. 改正前の問題点
2. 改正後
3. まとめ
1. 改正前の問題点
相続財産はどうなるか
誰かが亡くなって相続が開始すると、財産は相続人の共有とされます(改正民法898条1項)。
その後遺産分割で相続人の財産とされます。
相続財産の管理
相続人の財産とされるまでの間、誰かが相続財産の管理を行うわけですが、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」(民法896条本文)とされています。
管理中の間の費用や収入も、相続開始時にさかのぼって考慮され、遺産分割時に清算されることになります。
その管理は、「相続人」が「自己の財産におけるのと同一の注意をもって」しなければなりません(民法918条1項、940条1項)。
相続財産を管理できない場合
そうはいっても、必ずしも相続人が管理できるとは限りません。
唯一の相続人であるひとり息子が海外に行っていて行方不明であったり、管理する気がないこともあったりします。
数次相続(相続が重なること)で、誰が相続人かよく分からないということもあるでしょう。
所有者不明の空き家が問題になっているのも、こういうことが背景にあると思います。
そんなときは、「相続人のあることが明らかでないとき」(民法951条)であれば、利害関係人または検察官の請求が必要ですが、相続財産管理人(改正後相続財産清算人)が選任されました(旧民法952条)。
相続人のあることは明らかだけど、管理する人がいないとか、分からないというような、グレーゾーンの場合はどうしようもなかったわけです。
なお、不在者財産管理人(民法25条)というのもあるにはあるのですが、相続の時に使われることは必ずしも想定されていません。
また、改正前の相続財産清算人は、清算が目的ですので、とりあえずの保存や利用には向いていません。
その結果、相続財産が放置されることが問題となります。
2. 改正後
今回の改正で、とりあえずの相続財産の保存や利用には相続財産管理人、誰も相続人がいない場合の清算には相続財産清算人と、いわば使い分けることになりました。
旧相続財産管理人
相続財産に利害関係がある人に支払ったり、あげたりした後、清算することを目的にした手続きです。
まずは、相続財産管理人がどれくらい時間がかかる制度だったか見てみましょう。
相続人がいることが明らかでないときは、利害関係人または検察官の請求で選任(旧民法952条1項)
選任の公告(旧民法952条2項)
2ヶ月待って(旧民法957条1項)相続人がいなければ、相続債権者(亡くなった方に請求したい方)および受遺者(遺言で相続財産をもらえることになっている方)に2ヶ月以内に請求を申し出るよう公告(旧民法957条1項)
まだ相続人が判明しない場合、相続人に6ヶ月以内に名乗り出るよう公告(旧民法958条)
なお相続人が名乗り出なければ、特別縁故者が請求するまで3ヶ月待つ(旧民法958条の3)
その後、国庫帰属
ということになります。これでようやく清算できます。
新相続財産管理人
これがどう変わったかというと、
いつでも、利害関係人または検察官の請求で選任(改正民法897条の2第1項)
ただし、相続人が決まったときとか、相続財産清算人が選任されたら、相続財産管理人は選任されません。
シンプルな制度になりました。とりあえずの制度ですからね。
なお、正確には、同じ名前の新制度ができたということになります。
新相続財産管理人は、不在者財産管理人と同じように管理できますので、相続財産の保存や利用や、場合によっては処分もできるようになります。
相続財産の保全という役割が与えられ、グレーゾーンの場合をフォローすることになりました。
相続財産清算人
結果として誰も相続人がいない場合、清算する必要があります。
旧相続財産管理人は、相続財産清算人と改められました。
なお、相続財産清算人も、不在者財産管理人と同じように管理できます(民法953条)。保全ではなく清算のために管理することになろうかと思います。
流れも、以下のとおりだいぶ短縮されています。
相続人がいることが明らかでないときは、利害関係人または検察官の請求で選任(改正民法952条1項)
選任の公告(改正民法952条2項)
2ヶ月待たずに同時に相続人に6ヶ月以内に名乗り出るよう公告(改正民法952条2項)
また同時に、相続債権者(亡くなった方に請求したい方)および受遺者(遺言で相続財産をもらえることになっている方)に2ヶ月以内に請求を申し出るよう公告(改正民法957条1項)
6ヶ月待って相続人が名乗り出なければ、特別縁故者が請求するまで3ヶ月待つ(改正民法958条の2)
その後、国庫帰属
となりました。これは、旧相続財産管理人を改正したものです。
3. まとめ
いかがでしたでしょうか。
国家的に重要な相続財産が放置されているような場合であれば、検察官が相続財産管理人か相続財産清算人を請求するということになりますが、そうでない場合は利害関係者によって請求することになります。
じゃあ、利害関係者がほんとに請求するの?ということに関しては、下記ブログ記事「相続人がいないときはどうしたらいい?」もご覧ください。
http://souzokuigon.org/blog/419.php
実際には、相続人はいるが遺産分割で揉めていて、疑心暗鬼などで誰も相続財産の管理をさせてもらえず、公正な第三者に入ってもらおう、というようなときに、相続財産管理人が使えるのではないかなという気がしています。
今後の使われ方に注目したいと思います。
2023年2月20日