弁護士の佐野です。
今回は、亡くなったおじいちゃんの財産が使い込まれていた場合について書きたいと思います。
タイトルは「使い込まれていた場合」ですが、単にお金を貸していた場合も含まれます。
誰が使い込んでいたか(借りていたか)で変わるのですが、相続人の場合とそうでない場合に分けて考えてみたいと思います。
目次
1. そもそも、相続財産に貸したお金がある場合、どう扱われていた?
1.1. 従前の取り扱い
1.2. 取り扱いの変更
1.3. 取り扱いが変わらないもの
2. 相続人が使い込んでいた場合
3. 相続人以外の人が使い込んでいた場合
4. まとめ
1. そもそも、相続財産に貸したお金がある場合、どう扱われていた?
亡くなった人がお金を貸し付けていても、使い込まれていても、はたまた交通事故で慰謝料請求できる権利があったとしても、なんにせよ「債権」ということになります。
取り立てる権利ですね。
金銭で請求できる債権は、「可分債権」といわれます。
文字通り、分割可能な債権、というわけです。
ちなみに、不可分債権というのは、貸した車を返せとか、貸したダイヤを返せとかいったものですね。
1.1. 従前の取り扱い
亡くなった方がこのような可分債権を持っていた場合、相続財産としてはどう扱われているかといういうと、相続人が法定相続分に応じて分割してもらう、ということになっていました。
昭和29年4月8日最高裁判決では、
相続人が数人ある場合において、相続財産中に金銭の他の可分債権があるときは、その債権は法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解すべきである。
としました。
とても古い判決ですが、ずっと踏襲されてきているのです。
平成16年4月20日最高裁判決では、
共同相続人甲が相続財産中の可分債権につき権限なく自己の相続分以外の債権を行使した場合には,他の共同相続人乙は,甲に対し,侵害された自己の相続分につき,不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還を求めることができる。
とされました。
これはつまり、例えば相続財産に1000万円の貸金があって、甲乙2人がそれぞれ2分の1ずつ相続分がある場合、甲さんが債務者丙から1000万円もらったら、乙さんは甲さんに500万円を請求できる、ということです。
なぜこういう取り扱いをしているかというと、借りている側から見ればどうかを考えなければならないからです。
上の例で、丙さんはおじいちゃんにお金を貸してもらって助けられて心の底から感謝していて、何が何でも1000万円を返す気で、しっかりお金も用意していたとしましょう。
ところが、返済する前におじいちゃんは亡くなってしまいました。
丙さんとしては、誰に返していいのか分からなくて困ってしまいます。
甲乙の遺産分割協議が整うまでは返せないとなると、宙ぶらりんになってしまいます。
そこで、分割できる債権なんだから、法律上当然に分割されるという扱いにし、遺産分割協議がどうなろうと丙さんは甲乙にそれぞれ500万円ずつ支払えばいい、甲乙からすれば、丙さんにそれぞれ500万円ずつ請求できるということにすればいい、と考えられました。
1.2. 取り扱いの変更
理論上は、可分債権は自動的に分割されることできれいに整理され、混乱はなくなります。
しかし実際には、おじいちゃんが亡くなったことを知らずに、いつもおじいちゃんの代わりに窓口になってくれていた長男に全額支払ってしまった、なんてことも生じます。
また、いちいち分割しなければならないなんて知らなかったとか、相続人がどこにいるか分からない、なんて不都合もあると思います。
先ほども挙げた平成16年4月20日最高裁判決は、事案は簡潔にしますが、おじいちゃんがAさんに遺産を全部相続させるという遺言を書いていた場合に、Bさんが預貯金を払い戻したというようなケースです。
共同相続人甲が相続財産中の可分債権につき権限なく自己の相続分以外の債権を行使した場合には、他の共同相続人乙は、甲に対し、侵害された自己の相続分につき、不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還を求めることができる。
としました。
つまり、Aさんに全部相続させるという遺言があるにもかかわらず、Bさんは預貯金の半分をもらえるということになります。
さて、これってどうなんでしょう?
おじいちゃんとしては、信用できないBさんには全く残さず、信頼できずAさんに全て任せたかったのかもしれません。
Aさんは預貯金の半分しか取り返せないとなると、税金とか他の財産との関係で不都合が生じるかもしれません。
金庫にある現金は遺産分割の対象になり(ちゃんと保全されるかどうかは別ですが)、預貯金だとか信頼できる人に預けておいたら、それは遺産分割の対象にならずに自動的に分割されるとか、バランスが悪いように思います。
今や、クレジットカードや電子マネーなどがコンビニで現金代わりに使われる時代です。
その前提となるのは預貯金です。預貯金を現金と同じように使う時代なわけです。
ところが、現金と預貯金を違う扱いをされるとなると、誰にどの財産をあげたいかを考える人は、亡くなる前には全部お金を下ろしておいてね、亡くなったらその現金もどこかになくなるかもしれないけど、なんてことになりかねません。
もやもやする空気が蔓延する中、平成28年12月19日最高裁判決では、
共同相続された預貯金債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となる。
とされました。
とうとう判例変更となり、今後は預貯金も遺産分割の対象となると扱いが変更されました。
ただ、遺産分割協議が整わないと、一切預貯金を引き出せないということにもなります。
これは不都合ですよね。
お葬式の費用も工面できないことになりかねません。
そこで、民法改正でも、この判例変更を受けて、一定額の払い戻しを認めました(民法909条の2)。
このブログを書いている現在、上限は150万円です。
詳細は 亡くなった方の預貯金はどうしたらいい? 1 で書いていますので、そちらを参照してください。
1.3. 取り扱いが変わらないもの
預貯金については取り扱いが変わりましたが、その他の可分債権については取り扱いは変わっていません。
例えば、おじいちゃんが誰かにお金を貸していたとか、何かを売って支払ってもらう前に亡くなってしまったとか、交通事故に遭って慰謝料を請求して支払ってもらう前に亡くなってしまったとか、個人事業主として商売をしていて売掛金が残っているとか、そういったことが考えられます。
ここでは、誰かがおじいちゃんの財産を使い込んでいた場合を考えますね。
2022年7月18日