弁護士の佐野です。
これまでは婚姻中の方の子の話でしたが、婚姻していない方の子のお話をします。認知ですね。それと、虐待に関する改正のお話です。
3. 認知
認知は、嫡出でない、つまり法律上の夫婦の子ではない時に、父親が自分の子ですよと届け出るものです。
認知は、母の承諾を得れば、胎児に対してもできます(783条1項)。
ただ、父親と認められる範囲が変わりましたので(新772条)、772条で父親が決まるときには認知できませんよ、ということになりました(783条2項)。
また、認知の無効の訴えについては手続も明確にされ、訴え提起の期間制限も定められました。
基本的に、認知を知ったときから7年、胎児の場合は産まれてから7年ということになります(新786条1項)。
ただ、子の母親は、子の利益を害することが明らかなときはできません。
3.1. 父親との同居が短い場合
嫡出否認の訴えの場合と同様に、認知無効の訴えにも子どもには例外があります(新786条2項)。
「その子を認知した者と認知後に継続して同居した期間(当該期間が二以上あるときは、そのうち最も長い期間)が三年を下回るとき」
「二十一歳に達するまでの間、認知の無効の訴えを提起することができる」
「ただし、子による認知の無効の主張が認知をした者による養育の状況に照らして認知をした者の利益を著しく害するときは、この限りでない」
となっています。
同居が3年未満で、お父さんの利益を著しく害することがないなら、21歳まで裁判を起こせます、という例外です。
子ども自身の気持ちで決める機会を残したということですね。
同居期間が短かったら親子の情もそれほどないでしょうし、それを一応3年として、お父さんの気持ちも一応考慮したということになります。
子どもの自己決定権の尊重という観点ですね。
3.2. 子の養育に使ったお金はどうなる?
嫡出否認と同じく、認知無効でも、父親であることを否定されてしまった場合、養育していた間の費用(監護費用)はどうなるのかも気になるところですが、これも規定されました(新786条4項)。
子どもは、そのお金を返す必要はないということで決まりです。
3.3. 事実に反する認知と国籍
18歳未満の子を認知すると、
「認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であつた場合」
「その父又は母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の時に日本国民であつたとき」
日本の国籍を取得することができます(国籍法3条1項)。
認知無効の訴えの規定が整えられたため、この国籍法についても変更され、
「認知 について反対の事実があるときは、適用しない。」(新3条3項)
とされました。
しかしこれはどうなんだろうと思います。
認知無効の訴えの提訴期限が7年、裁判に1年かかったとして8年になります。
つまり、子どもは8歳。
子どもなりに生活環境ができていて、学校や友達もいるというときに、国籍がなくなるということになると、在留資格の問題になります。
出入国管理及び難民認定法で決められているのですが、子が認知されていて、それが否定されて、国籍が問題になるということになると、外国人のシングルマザーというケースが想定されます。
となると、お母さんには日本人の配偶者等、永住者の配偶者等という資格はなく、定住者でもないでしょう。
特別永住者でない場合、法務大臣が永住を許可した者でないと永住者の資格はありませんので、子どもが強制送還、なんてことになりかねません。
かといって、日本人が認知すれば何でもOKというようなことになると、それはそれで問題です。
なんとかいい方法がないかと悩むところですね。
4. 懲戒権
昨今の児童虐待の状況を受け、子どもの人格を尊重しなさいということになりました。
「親権を行う者は、前条の規定による監護及び教育をするに当たっては、子の人格を尊重するとともに、その年齢及び発達の程度に配慮しなければならず、かつ、体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない」(新821条)
と規定されました。
体罰の根拠となる懲戒権も削除されました(旧822条)。
体罰については議論があるところで、体罰もしつけだ~!という方もおられるかと思います。
しかし、体罰の文化はあっても、体罰で教育ができたという実証はないように思います。
体罰で表面的な平穏を保つことはできても、本当にそれでいいのか、それが子どもの成長にいいのか、とは思います。
かといって、どうしようもないケースもあるわけで、難しい問題でしょうね。
※児童福祉法、児童虐待防止法
なお、親だけでなく、児童相談所でも同じように体罰はいかんということになっています。
元々、「体罰を加えることはできない」(児童福祉法旧33条の2第2項)となっていましたが、民法821条の規定新設に合わせて、
「児童相談所長は、児童の人格を尊重するとともに、その年齢及び発達の程度に配慮しなければならず、かつ、体罰その他の児童の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない」(新33条の2第2項)
という文言が入れられました。
また、里親についても同様の規定ぶりとなっています(新47条3項)。
児童虐待防止法にも、児童の人格の尊重等ということで、同様の文言が入りました(児童虐待防止法14条)。
5. まとめ
いかがでしたでしょうか。
再婚禁止期間が撤廃されたのは、女性差別の解消であり、良かったと思います。
拍手している女性もいるのではないでしょうか。
また、子どもが誰の子かという点についても、子どもの負担を減らしている点については良かったと思います。
父親が誰かということについては、周りの人の負担が増えたかのようにも思いますが、実際にはもやもやした状態を解消しやすくしているので、これも良かったと思います。
認知と国籍のところは、どうバランスを取ればいいのか難しいところです。
いったん認知すれば永久に国籍取得、ということになると、下手をすると、認知ビジネスみたいなことが生じかねません。
かといって、子どもが、強制送還になるかもしれない不安定な地位におかれてしまうのもどうかと思います。
日本で在留資格を柔軟に認める運用がされていれば、このような問題はある程度解消されるのかもしれませんが、少なくとも今はそのような運用はされておらず、むしろ外国人に対して厳しい運用がされています。
懲戒権については、異論あるかもしれませんが、児童虐待防止の方が重要ですので、良かったと思います。
今回の改正では、再婚禁止期間の問題が一番影響が大きいので、まずはいい改正だったということになろうかと思います。
2023年1月29日