弁護士の佐野です。
嫡出否認の訴えの期間制限には例外があります。今回はそのことと、その他の問題について解説します。
2.2.3. 父親との同居が短い場合
嫡出否認の訴えには期間制限があると書きましたが、子どもには例外があります(新778条の2第2項)。
「その父と継続して同居した期間(当該期間が二以上あるときは、そのうち最も長い期間)が三年を下回るとき」
「二十一歳に達するまでの間、嫡出否認の訴えを提起することができる」
「ただし、子の否認権の行使が父による養育の状況に照らして父の利益を著しく害するときは、この限りでない」
となっています。
同居が3年未満で、お父さんの利益を著しく害することがないなら、21歳まで裁判を起こせます、という例外です。
子ども自身の気持ちで決める機会を残したということですね。
同居期間が短かったら親子の情もそれほどないでしょうし、それを一応3年として、お父さんの気持ちも一応考慮したということになります。
子どもの自己決定権の尊重という観点ですね。
2.2.4. その他の問題
2.2.4.1. 子の養育に使ったお金はどうなる?
嫡出否認で、父親であることを否定されてしまった場合、養育していた間の費用(監護費用)はどうなるのかも気になるところですが、これも規定されました(新778条の3)。
子どもは、そのお金を返す必要はないということで決まりです。
2.2.4.2. 相続があった後に父親が推定されたら?
父親が亡くなって、遺産分割の手続も終わった後に、その人が父親だと推定されることになるということもあり得ます。
その場合、遺産分割の請求は、価額だけの請求になります(新778条の4)。
不動産があろうがなんだろうが、価額だけということになります。
ただし、請求はそうだというだけで、話し合いで決めれば、物でも可能ですね。
2.2.5. 前夫通知
民法改正ではなく、人事訴訟法の改正で、嫡出否認の判決が確定したときは、裁判所が、前夫に判決内容を通知すると規定されました(人事訴訟法42条)。
また、家事事件手続法の改正で、嫡出否認の審判が確定した場合も同様です(家事事件手続法283条の3)。
嫡出否認の訴え第2弾の期間が制限されている趣旨から、通知しなければならないということになったわけです。 前夫に通知が行くので、このたび父親になりました!なんてことになると、びっくりするでしょうね。
2.2.6. 人工授精の場合
「生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律」というものがありまして、他人の卵子、他人の精子を使う場合、つまり人工授精の法律です。
人工授精をしておきながら、自分の精子ではないからと嫡出否認をするというのはおかしいので、それを禁止する規定がありました。
これも、夫のみとしていたのですが、民法改正で夫、子、妻も嫡出否認をできるようになったので、全員できないようにされました。
2022年1月22日