弁護士の佐野です。
再婚禁止期間の廃止、それに伴って父親が決まることが整理されましたが、次はそれによって生じる不都合をどう解消するかの話です。
2.2. 嫡出否認
2022年12月10日の民法772条の改正で、法律上の父親は形式的に決まることになりましたが、生物学的には実は違うということがあり得ます。
これまでにもこの問題はあったのですが、夫しかできなかったというのがネックでした。夫がわざわざ主張してくれなければ厳しかったのです。
これが拡充され、整備されました。
まず、父または子は、それぞれ、
「この子は私の子ではない」「この人は私の父親ではない」
と否認することができます(新774条1項)。
とはいっても、小さな子どもが自分自身で否認権を裁判で主張できるわけがありません。
そこで、それをするのは、親権を行う母、親権を行う養親または未成年後見人ということになりました(新774条2項)。
さらに、子ども自身の権利とは別に、母親自身にも否認権が認められました(新774条3項)。
ただし、「その否認権の行使が子の利益を害することが明らかなとき」はできません。
具体的にどういう場合かはちょっと思いつきませんが、母親の勝手で「この子はあんたの子やない!」なんて言われて子どもが振り回されるようなことがあっては困る、ということですね。
また、前夫にも否認権が認められました(新774条4項)。前夫とは、、新772条で父親とはされていないものの、「子の懐胎の時から出生の時までの間に母と婚姻していた者」のことをいいます。
これも同じく、「その否認権の行使が子の利益を害することが明らかなとき」はできません。
具体的にどういう場合かはちょっと思いつきませんが、前夫の勝手で「この子は俺の子だ!」なんて言われて子どもが振り回されるようなことがあっては困る、ということですね。
この前夫が否認権を行使し、父親になると、もう否認権は使えません(新774条5項)。
また、前夫は、子が成年に達すると、提訴できません(新778条の2第4項)。
2.2.1. 嫡出否認の訴え
嫡出の否認権をどうやって行使すればいいかですが、好きなようにされても困ります。
そこで、裁判で決めなさいよということだったのですが、誰が誰に対して裁判を起こせばいいかということも明記されました(新775条1項)。
また、裁判を起こせる期間も3年に延長されました(新777条本文)。元々は1年でした。
1年なんて、バタバタしているうちに過ぎるということもあったと思いますが、少々余裕が出たのではないかと思います。
いつから3年というのも明記されました(新777条各号)。
子ども自身と母親は産まれたときから、父親や前夫は出生を知ったときからです。
なお、嫡出を承認した場合、否認権を失います(新776条)。
方法は問わないので、色んな具体的事情から決めるしかありません。
生物学的にも父親だったというような場合はいいのですが、生物学的には父親ではないのに承認したことになってしまって否認権を行使できないとなると、それはそれで大変です。
そこで、出生届の提出といったような程度のことでは、承認ということにはなりません。何か重たい事情が必要でしょうね。
2.2.2. 嫡出否認の訴え第2弾
嫡出否認の訴えが認められて、その人は父親ではないとなると、その前の夫が嫡出の推定を受けます(新772条4項)。
しかし、その人も父親ではないかもしれません。
そのため、また嫡出否認の訴えをすることができます。
ところが、母親が結婚と離婚を繰り返し、全部争いになると、3年、3年・・・と続いてしまうことになります。それはよろしくないですよね。子どもにとっても、いつまでも父親が決まらないとややこしそうです。
そこで、第2弾の嫡出否認の訴えになる場合、前の裁判が確定して1年に提訴しなさいということになりました(新778条)。
1年は、前の訴えが確定したことを知ったときからカウントします。後に書きますが、裁判所から通知が行きます。引っ越したが住民票を移していない、というような場合でもない限り、速やかに連絡が行くことになります。
2023年1月15日