弁護士の佐野です。
次に、再婚禁止機関の廃止に伴う、父親関係の改正について解説します。
2. 子の父親は誰かについても整理されました
2.1. 嫡出推定
2022年12月10日、「嫡出の推定」というものも変わりました(民法772条)。
嫡出子とは、法律上婚姻している夫婦の間に生まれた子で、非嫡出子は法律上未婚の男女の間に生まれた子のことです。
昔は、嫡出子は嫡男、つまり、正妻の生んだ最初の男子が家督相続をするということで、大きな意味がありました。家督相続は昭和22年5月2日までで終わっています。
家督相続がなくなった後も、非嫡出子の相続分の割合は嫡出子の2分の1とされており、嫡出子かどうかは大きな問題でした。
しかし、平成25年9月4日の最高裁判決で、その相続分の分け方は差別で違憲だとされ、その根拠だった民法900条4号但書き前段は削除されています。
今では、「嫡出」かどうかというより、父親が誰か、その子は相続できるか、という点で問題となります。
そして、いちいち嫡出かどうかを確認するのは不合理なため、嫡出の推定というものがあったのです。
元々は、
「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。」
「婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。」
とされていました。
これはつまり、
結婚して200日以内に産まれた子は、夫の子とは推定しない。
離婚して300日以内に産まれた子は、元夫の子と推定する。
という意味です。
前者は、いわゆるできちゃった婚とかに合致しないこともあり得ますね。
後者は、離婚直前まで性交渉があるということが前提で、夫婦として冷え切っててもすることはする、みたいな感じで違和感がありますね。しかも、再婚禁止期間がなくなり、推定が重複してしまうことになりかねません。前夫も現夫も父親、みたいな。創造するとシュールです。
これが、新772条1項では、
「妻が婚姻中に懐胎した子は、当該婚姻における夫の子と推定する。」
「女が婚姻前に懐胎した子であって、婚姻が成立した後に生まれたものも、同様とする。」
となりました。
つまり、結婚中に妊娠した子は夫の子、結婚中に産まれた子も夫の子、ということですね。
さらに新772条2項では、
「前項の場合において、婚姻の成立の日から二百日以内に生まれた子は、婚姻前に懐胎したものと推定し、」
「婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する」
とされました。
つまり、以前宙ぶらりんだった、結婚して200日以内に産まれた子についても、夫の子と推定しますよ、ということになりました。また、離婚して300日以内の子も、元夫の子と推定されます。
書きぶりはややこしいですが、結局のところ、そういうことですね。
分かりやすくなりましたね。
※結婚、離婚を繰り返した場合
ただ、そうすると、女性が結婚、離婚を繰り返した場合、推定が二重になることがあります。
そこで、新772条3項では、
「第一項の場合において、女が子を懐胎した時から子の出生の時までの間に二以上の婚姻をしていたときは、その子は、その出生の直近の婚姻における夫の子と推定する」
としました。
出生の時の夫か、離婚していれば、最後の結婚の元夫が父親になるということになりました。
とりあえず、父親を家庭裁判所の手続で決めなければならない(旧773条)、それまでは父親不明、という状態は避けられるということです。
不都合な場合も生じるのですが、それは次に解説する、嫡出否認の話になります。
父親を決めなければならないというのは子どもの負担だったのですが、その負担をなくし、自分が父親ではないことを主張しなさいという父親や関係者の負担に変更したということが大事です。
2023年1月8日