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遺言の種類とその保管4

2022/06/27
佐野 就平






弁護士の佐野です。




引き続き遺言書保管制度について書いていきます。今回はめんどくさいところになります。


3.5. 遺言者が亡くなったら、相続人はどうしたらいいの?


これまで書いてきたことは、遺言者の生前の話です。
遺言書を保管しているので、亡くなってからが保管制度の本領発揮というところでしょう。

遺言者が亡くなると、関係相続人等は、遺言書を保管しているという事実ではなく、遺言書の内容の証明書の請求ができるようになります(遺言書保管法9条1項本文)。
これを遺言書情報証明書といいます。

遺言書情報証明書は、保管されている遺言書保管所以外の遺言書保管所の遺言書保管官に対してもすることができます(遺言書保管法9条2項)。

また、関係相続人等は、関係遺言書を実際に保管している遺言書保管所の遺言書保管官に対し、閲覧を請求することもできます(遺言書保管法9条3項)。

遺言書保管官は、遺言書情報証明書を交付したり、閲覧させたときは、当該関係遺言書を保管していることを、遺言者の相続人、受遺者、指定された遺言執行者に通知します(遺言書保管法9条5項)。

交付や閲覧の請求があって、ようやく遺言者が亡くなったことが分かるので、分かったら連絡しますよ、ということですね。
逆に言うと、誰か1人には法務局に遺言書を預けていますよと、教えておかなければなりません。

さて、しれっと「関係相続人等」と書きましたが、遺言執行法9条1項に細かく規定されています。
細かすぎてめんどくさいです。
あんまり見ても仕方ないような気もしますが、一応条文を見ていきますね。

一号 当該遺言書の保管を申請した遺言者の相続人(民法第八百九十一条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者及び相続の放棄をした者を含む。以下この条において同じ。)

これは遺言者の相続人ですが、欠格(民法891条)、廃除(民法892条)、相続放棄をした人(民法915条1項)も含みます
相続できない人も、遺言に何が書いてあったか知ることができるんですね。

二号 前号に掲げる者のほか、当該遺言書に記載された次に掲げる者又はその相続人(ロに規定する母の相続人の場合にあっては、ロに規定する胎内に在る子に限る。)

相続財産を受け取ることに利害関係がある人ですね。

イ 第四条第四項第三号イに掲げる者

これは、受遺者や受遺者の相続人です。

ロ 民法第七百八十一条第二項の規定により認知するものとされた子(胎内に在る子にあっては、その母)

これは、遺言によって認知された子です。
まだ生まれていなければ母親も含みます。この場合、認知には母親の承諾が必要です(民法783条1項)。
ただし、その母親が死亡した場合、その母親の相続人は請求できず、その認知された子だけが請求できます。

成年の子を認知した場合、本人の承諾が必要です(民法782条)。

さらに子が死亡していた場合、その子にさらに子(孫)がいれば認知できます(民法783条2項)が、子(孫)が成人している場合はその子(孫)の承諾が必要です。
承諾があれば、その成年の子やその相続人は請求できます。

ハ 民法第八百九十三条の規定により廃除する意思を表示された推定相続人(同法第八百九十二条に規定する推定相続人をいう。以下このハにおいて同じ。)又は同法第八百九十四条第二項において準用する同法第八百九十三条の規定により廃除を取り消す意思を表示された推定相続人

規定ぶりはややこしいですが、要するに、廃除されるとされたり廃除を取り消すとされた遺言者の推定相続人や、その推定相続人の相続人も請求できます。

ニ 民法第八百九十七条第一項ただし書の規定により指定された祖先の祭祀しを主宰すべき者

祭祀は、慣習に従って(はっきりしないときは家庭裁判所が定める)、あるいは被相続人の指定に従って承継されます(民法897条)。
その祭祀を承継した人も請求できます。

ホ 国家公務員災害補償法(昭和二十六年法律第百九十一号)第十七条の五第三項の規定により遺族補償一時金を受けることができる遺族のうち特に指定された者又は地方公務員災害補償法(昭和四十二年法律第百二十一号)第三十七条第三項の規定により遺族補償一時金を受けることができる遺族のうち特に指定された者

国家公務員や地方公務員は、公務上死亡したり通勤で死亡した場合、遺族補償を受けられます(国家公務員災害補償法15条、地方公務員災害補償法31条)。
ここでは省略しますが、一定の場合に遺族補償一時金を受け取ることができます(国家公務員災害補償法17条の4、地方公務員災害補償法36条)。

遺族補償一時金を受け取ることができる遺族は法定されているのですが(国家公務員災害補償法17条の5第1項、地方公務員災害補償法37条1項)、職員が遺言か、あるいはその者の属する実施機関の長(国家公務員)またはその者の任命権者(地方公務員)に対する予告で、もらえる人を指定することができます(国家公務員災害補償法17条の5第3項、地方公務員災害補償法37条第3項)。

指定された人が相続人でない場合、遺言書情報証明書を請求できないと困りますよね。

ヘ 信託法(平成十八年法律第百八号)第三条第二号に掲げる方法によって信託がされた場合においてその受益者となるべき者として指定された者若しくは残余財産の帰属すべき者となるべき者として指定された者又は同法第八十九条第二項の規定による受益者指定権等の行使により受益者となるべき者

これは、遺言信託の場合に、信託の財産を受けるべき人も請求できるということです。

ト 保険法(平成二十年法律第五十六号)第四十四条第一項又は第七十三条第一項の規定による保険金受取人の変更により保険金受取人となるべき者

これは遺言によって保険金受取人の変更をした場合の受取人です。

チ イからトまでに掲げる者のほか、これらに類するものとして政令で定める者

上記だけでも細かいので、いちいち法律に書いていられないということで、政令に定める者と定めておいて、いちいち法律を改正しなくてもいいようにされています。
法務局における遺言書の保管等に関する政令7条ですが、細かすぎてここでは省略します。

三 前二号に掲げる者のほか、当該遺言書に記載された次に掲げる者

2号までは財産を受け取る関係の人でしたが、3号は財産がもらえない関係者です。

イ 第四条第四項第三号ロに掲げる者

これは遺言執行者です。

ロ 民法第八百三十条第一項の財産について指定された管理者

子どもに財産を与える人が、親に管理させずに他の人に管理するよう指定する場合の、その管理者ですね。

ハ 民法第八百三十九条第一項の規定により指定された未成年後見人又は同法第八百四十八条の規定により指定された未成年後見監督人

そのまま、未成年の人の後見人や後見監督人です。

ニ 民法第九百二条第一項の規定により共同相続人の相続分を定めることを委託された第三者、同法第九百八条の規定により遺産の分割の方法を定めることを委託された第三者又は同法第千六条第一項の規定により遺言執行者の指定を委託された第三者

1人目は、相続財産は、遺言で、誰か第三者に相続分を決めてもらうこともできます(民法902条1項)が、その第三者です。

2人目は、相続財産は、遺言で、誰か第三者に遺産分割の方法を決めてもらうこともできます(民法908条)が、その第三者です。

3人目は、遺言で、遺言執行者を誰かに指定するよう第三者に委託できるのです(民法1006条1項)が、その第三者です。

ホ 著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)第七十五条第二項の規定により同条第一項の登録について指定を受けた者又は同法第百十六条第三項の規定により同条第一項の請求について指定を受けた者

ペンネームを使って著作物の著作者は、実名の登録ができる(著作権法75条)のですが、それを自分が死んだ後に遺言で指定する人に登録してもらうことができます。その指定された人です。

また、著作権侵害に対して差し止め請求(著作権法112条)や名誉回復措置請求(著作権法115条)をするような場合、遺言で、遺族以外の人にそういうことができる人を指定することができるのですが、その指定された人です。

ヘ 信託法第三条第二号に掲げる方法によって信託がされた場合においてその受託者となるべき者、信託管理人となるべき者、信託監督人となるべき者又は受益者代理人となるべき者として指定された者

これは、遺言信託の場合に、信託の財産を管理する関係の人も請求できるということです。

ト イからヘまでに掲げる者のほか、これらに類するものとして政令で定める者

法務局における遺言書の保管等に関する政令8条ですが、細かすぎてここでは省略します。

とりあえず簡単に説明しましたが、こんなに細かく書いていいのかと思うくらい細かいです。これを読んでいただいている方にも、ほとんど関係ない話だと思います。

ですが、ここまで細かくしないと、現場の法務局、遺言書保管所、遺言書保管官それぞれがクレームの嵐になってしまう可能性がありますね。
「利害関係者」といった曖昧な規定ぶりだと、いちいち審査請求、なんてことになるかもしれません(遺言書保管法16条)。

遺言書保管官は、間違っていると認める場合はいいのですが(遺言書保管法16条3項)、そうでない場合は「三日以内に、意見を付して事件を監督法務局又は地方法務局の長に送付」しなければなりません(遺言書保管法16条4項)。

しかも、監督法務局または地方法務局の長は、審理員に送付しなければなりません(遺言書保管法16条4項)。

遺言書を見せろ、遺言書情報証明書を出せと血眼になっている人も多い可能性もあり、審査請求されることも多くなることが想定され、そうなると、いちいち審査して裁決書を作成しなければならず、とんでもないことになります。

2022年6月27日

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