弁護士の佐野です。
引き続き、遺言の保管について書いていきますね。ここからは遺言書保管制度になります。
3. 法務局における遺言書の保管等に関する法律
今回のお話は、実は、法務局における遺言書の保管等に関する法律が2018年(平成30年)に制定されたことがテーマです。
自宅に遺言を保管していて、改ざんや破棄の危険性もあるし、だいぶ経ってから発見されるのは困るでしょ、弁護士に頼んだらものすごい費用がかかるでしょ(ほんまかいな~)、だからこういう制度を作りました!ということの解説ですね。
弁護士の業務妨害ではないか?法務局の職員は「何面倒な仕事を増やしてくれてんねん。保管場所の予算はちゃんとつけてくれるんやろな?」とぼやいてないか?ということはさておいて、まあ、使えない制度ではないので、解説しておきたいと思います。
以下、「遺言書保管法」と略称を使います。
3.1. どこに保管されるの?
ずばり、法務局です(遺言書保管法1条)。
法務局に保管されるのですが、遺言書保管所としてやるということになります(遺言書保管法2条)。
なぜ、遺言書保管所として、という扱いをわざわざするのか分かりませんが、予算が違う扱いになるのか、遺言書保管官(遺言書保管法3条)という身分を作るからなのかよく分かりません。
遺言書保管所の事務は、遺言書保管官が行いますが、これは法務事務官がなることになります(遺言書保管法3条)。
法務事務官がどんなものかはちょっと分かりませんでした。資格試験で採用するのか、天下り職か、単なる法務局職員なのか、非正規雇用なのか、ま、何にせよ法務局の方ですね。
3.2. どうやって申請するの?
遺言書の保管の申請は、法務局に実際に行って、自分でしなければなりません(遺言書保管法4条1項、6項)。
代理であったり郵便であったりはできないんですね。
しっかり本人確認もされます(遺言書保管法5条)。
元気なうちにしておかないといけませんね。
保管してもらう遺言書には様式があります。(法務省リンク)
法律上の遺言の記載の要件(民法968条)の他、なんと、紙のサイズや余白の大きさまで決められています。
パソコンで作成するならともかく、自筆なのでなかなか面倒ですね。
申請には、遺言書の他、申請書や本人確認書類などが必要になります(遺言書保管法4条5項)。
3.3. どう保管されるの?
申請が受理された遺言書は、遺言書保管官によって遺言書保管所の施設内に保管されます(遺言書保管法6条1項)。
遺言書の保管とは別に、「遺言書に係る情報」が別途管理されます(遺言書保管法7条1項)。
要するに、PDFにした上で、いつ誰が作成して、受遺者や遺言執行者は誰か、いつから保管してそれがどこにあるか、といったことです(遺言書保管法7条2項)。
ただし、PDFになっているからといって、オンラインで閲覧できるとかそういったことはありません(遺言書保管法6条4項)。
自分で見に行って、閲覧申請書を書いたり本人確認をしたりする必要があります。(法務省リンク)
見られるのは本人だけですね(遺言書保管法6条2項)。
3.4. 保管してもらうのを止めるのはどうするの?
保管してくれと申請したら、もう二度とさわれないということになってしまうと大変です。
そこで、遺言者本人は、いつでも保管の申請の撤回ができます(遺言書保管法8条1項)。
申請や閲覧と同じく、本人が法務局に出向いて、自分でしなければなりません(遺言書保管法8条3項
)。
そうすると、遺言書保管官は、遺言書を返してくれますし、PDFも消去してくれます(遺言書保管法8条4項)。
これは保管の申請の撤回ですので、遺言の撤回ではありません。
遺言を撤回するには、民法1022条以下の手続きによって撤回しなければなりません。
2022年6月20日