弁護士の佐野です。
引き続き、介護した人が遺産をもらえるかについて書いていきます。
4. 親族が介護していた場合 特別の寄与制度
2021年の民法改正で新設されたのが、親族が関与する場合の特別の寄与という制度です(民法1050条)。
ようやく今回のブログのメインの話に入ってきました。
4.1. 2021年民法改正以前
民法の改正以前は、親族であっても、先ほどの、親族でもない全くの第三者が介護していた場合と同じ取り扱いをされていました。
しかし、例えばおじいちゃんの介護を長男の嫁(おじいちゃんの親族にあたります)がやるのが当たり前、そんなん善意、家族愛でやるのが当たり前なんやし当然無償やんか、という考え方に疑問が提起されました。
全くの第三者は何ともできないにせよ、親族で報われるべき人は何とかできないか、ということで編み出されたのが、相続人の間接的な寄与があるでしょ、という理屈でした。
つまり、おじいちゃんの介護をおじいちゃんの相続人の配偶者がやっていたような場合、配偶者の寄与を相続人の寄与として評価し、相続人の相続分を増やすという形で、その配偶者の寄与に報いようとしたのです。
理屈としては、相続人とその配偶者の寄与は一体のものでしょ、というものと、配偶者の寄与は相続人の履行補助者、つまり相続人自身がやるのを手伝ったものでしょ、というものがあったようです。
しかしこれには問題があります。
無理矢理解釈している側面があるので、限界があるのは当然です。
まず、相続人が先に死亡した場合です。この例の場合は長男ですね。長男が先に亡くなってしまったけど、嫁はずっと介護を続けていた、なんて話はありそうです。
相続人(この場合長男)が先に死亡すると、相続分を増やすべき相続人がいないことになってしまいます。
その相続人がいるからその配偶者の寄与が反映されるのであって、前提がなくなってしまいます。
子どもがいた場合、子どもの相続分を増やすということも考えられますが、理屈としてはかなり苦しいと思います。
また、相続人(この場合は長男)と配偶者の関係が悪いようなとき、いくら相続人の相続分が増えても、相続人が配偶者に渡さなければ配偶者の寄与が報いられることにはなりません。
増えた分が愛人に渡ったとか、遊びで使い切った、なんてこともあり得るわけです。
寄与に報いるには、不確実な方法でした。
4.2. 誰が請求できる?
民法1050条1項には、
親族(相続人、相続の放棄をした者及び第八百九十一条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く)
とあります。
まず、親族のうち、相続人以外の人に遺産をあげようという制度ですし、寄与分の制度もあるので、相続人は除かれます。
次に、相続の放棄をした人も、相続人であるし、しかもいらへんわと言っているので、除かれます。
また、したらあかんことをしてしまって相続人になれなくなった人や(民法891条)、被相続人に悪いことをして相続人として廃除されることになった人(民法892条、893条)も除かれます。
それ以外の親族ということになるのですが、その親族は民法725条に規定されています。
親族関係図などは、他のサイトできれいなものがあると思いますので、検索して探してみてください。面倒なので私は作成しません。
ここではざっくり、六親等内の血族、三親等内の姻族と結論だけ書いておきます。
なんやそれ?で構いません。
例えば、相続人にならない孫や兄弟姉妹や甥姪、それらの配偶者とかですね。配偶者の連れ子や、義理の兄弟、義理の甥姪も入ります。
他にもいますが、あんまりないと思いますので、とりあえずそこは省略します。
4.3. どういう場合に請求できる?
これは、民法1050条1項に規定されています。
「被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした」場合に、寄与に応じた額の金銭(特別寄与料といいます)を請求できることになります。
なおこれは、協議が整わない場合など、家庭裁判所に協議に変わる処分を請求する場合、相続の開始及び相続人を知った時から6ヶ月、または、被相続人が亡くなってから1年以内に請求しなければなりません。
要件としては、
- 無償で療養看護をしたり、その他の労務の提供をしたこと
- 被相続人の財産が維持または増加したこと
となります。
ここでは、無償というのがポイントですね。
いくら親族でも、ヘルパーとして給料をもらって介護をしていてもダメです。
資産管理の委託を受けて報酬をもらって資産運用して財産を増加させていてもダメです。
当たり前ですね。
しかし、小遣いをもらっていた程度なら、無償と評価されるかもしれません。
全く別の理由で、何らか贈与を受けていても、無償と評価されるかもしれません。
このあたりは、事例の蓄積を待つしかなさそうです。
4.4. 寄与分との違い
さて、寄与分と特別の寄与については、少々規定ぶりが異なります。条文を見ますと、
寄与分(民法904条の2)
被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与
特別の寄与(民法1050条)
無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与
となっています。
ここでは介護についてのみ取り上げますが、この場合、先ほど書いたとおり、無償かどうかがポイントになりそうです。
また、特別寄与者の場合、寄与が特別かどうかも、理論上は一応問題になりそうです。
というのも、直系血族及び同居の親族は、互いに扶(たす)け合わなければならないとされています(民法730条)。
また、親族のうち、直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養する義務があります(民法877条1項)。
扶養義務の順位もあるにはあります(民法878条)。
扶養義務の内容も、幼い子どもに対しては生活保持義務、老親に対しては生活扶助義務だといわれています。
生活保持義務は、自分の生活を削ってでも同様の生活を保持させる義務で、生活扶助義務は、自分の生活の余裕の範囲内で援助する義務です。
身分関係によって、どの程度が特別かが変わってくることになります。
特別の寄与の場合は、寄与分ほど近い身分関係ではないので、寄与分ほどの特別さは必要なく、一定程度でいいということにはなるようです。
ただ、実際には、それほど大きな差にはならないかもしれません。
事例の蓄積を待つしかないと思いますが、時間がかかりそうですね。
5. まとめ
いかがでしたでしょうか。
介護の負担が大きいことが社会的に認知され、長男の嫁に押しつけるのはおかしいという認識も広まり、1997年(平成9年)には介護保険法も制定されました。
ようやくではありますが、相続においても介護に報いようという制度ができました。
一歩前進とはいえ、まだまだ不十分です。
やはり、遺言できちんと報いてあげるのが一番ではないでしょうか。
単に遺贈するだけでなく、遺言に感謝の気持ちを付言事項として書いておくと、気持ちも伝わります。
法律で認められているから権利行使しなさいよ、結構大変な手続きを踏みなさいよ、勝ち取ってくださいね、ではなく、感謝している人がきちんと報いることを残してあげるということが大事なのではないかと思います。
介護に限らずですが、感謝の気持ちを伝えたい人がいて、その人に報いてあげるために遺言を書いてあげるのが、紛争予防にもなりますし、受け取る側の気持ちも満たされると思います。
気持ちが変わったら、遺言はいくらでも書き換えられます。
まず遺言を書いてみることをお勧めします。
2022年5月30日