
弁護士の佐野です。
「長男の嫁がおじいちゃんの世話をしていました。おじいちゃんが亡くなって、泥沼の相続争いが起こり、嫁は口を出すなと言われてはじき出され、その嫁は全く報われませんでした。」
なんてことが昔はあったと思います。平成をさかのぼって、昭和くらいなら、ドラマにありそうな感じですね。
今回は、介護してきた人も遺産がもらえるかについて書いてみたいと思います。
2021年の民法(相続法)改正で変わったところもありまして、これまた複雑で長くなるので、分けて書いてみますね。
目次
1. 2021年民法改正以前はどうだった?
2. 相続人が介護していた場合
3. 親族でもない全くの第三者が介護していた場合
3.1. 身寄りがない人を介護していた場合
3.2. 親族とは縁が切れてしまった人を介護していた場合
3.3. 内縁の場合
4. 親族が介護していた場合 特別の寄与制度
4.1. 2021年民法改正以前
4.2. 誰が請求できる?
4.3. どういう場合に請求できる?
4.4. 寄与分との違い
5. まとめ
1. 2021年民法改正以前はどうだった?
まずは、マニアックですが、流れを見ておきましょう。
1945年(昭和20年)8月14日、日本はポツダム宣言を受諾して、第二次世界大戦は終結しました。
その後、1946年(昭和21年)11月3日に日本国憲法が公布され、新憲法に適合するように法律全般にわたって改正作業がなされました。
1947年(昭和22年)には、明治以来続いた家督相続制度が廃止されました。
これまでは、家そのものを丸ごと1人に相続させていたわけです。
なので、介護がどうとかは全く関係なかったでしょうね。
その後、1962年(昭和37年)に、特別縁故者への分与制度が新設されました。
寄与分よりも先にこちらが新設されています。
身内ではなくなぜに第三者が先に手当てされるの?と疑問に思う方もおられるかと思います。
特別縁故者は、民法951条からの「第六章 相続人の不存在」の最後の方、民法958条の3に規定されています。
家督制度を廃止して、相続人を法律で決めたわけですが、その相続人の範囲を近親者に限定しました。
そのため、相続人がいないという事例が出てくるようになったようです。
そうなると、相続財産は国庫に帰属することになります(民法959条)。
それはまずいよね、ということで、特別縁故者に対する財産分与の制度が新設されたそうです(民法第958条の3)。
国が儲かりそうなのになんで?と思いがちですが、管理する費用やリスクを考えると、国としては相続してくれた方がいいんです。
文言上は、「被相続人と生計を同じくしていた者」、「被相続人の療養看護に努めた者」「その他被相続人と特別の縁故があった者」とあり、介護についても触れられていますが、介護が報われるかどうかが問題とされたわけではなく、誰かに相続財産を引き継がせるという都合があったわけですね。
さらにその18年後、1980年(昭和55年)に、寄与分制度が新設されました(民法第904条の2)。
相続人間の実質的な公平を図る目的だとされています。
ようやく、「第二節 相続分」の中に、相続分として「被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与」が考慮されることになり、介護をきちんと評価しましょうという考え方が入りました。
ただ、この頃はまだ、親の介護は長男の嫁がやる、みたいな感覚があったのではないでしょうか。また、長男の嫁は長男の親に尽くすもの、みたいな感覚があったのではないでしょうか。
とすると、長男の嫁が尽くした分を、長男の相続分として考慮するの?という疑問が生じることになります。
当時はまだ嫁の財産という感覚があんまりない、家族のものは父親のものという時代だったのではないでしょうか。
この疑問については後ほど書きます。
ちなみに、この頃は老人が病院に長期入院するのが普通の時代だったようです。
1982年(昭和57年)に老人保健法が制定されましたが、翌年厚生省(厚生労働省になったのは2001年です)は老人の診療報酬について、長期になるほど病院が不利になるように変更しています。
「老人病院」を減らそうとしたんですね。
老人介護の負担がクローズアップされていたことも、改正の背景にありそうです。
疑問は生じながらも、一歩前進という評価をすべきなのかなと思います。
2. 相続人が介護していた場合
昔は、相続人で介護している人がいるとすれば、妻や娘が代表的だったのではないでしょうか。
今では、息子も介護をするのが普通になってきたと思います。
この場合は、介護をした事情は寄与分として考慮されます(民法904条の2)。寄与分は、
- 被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付をした
- 被相続人の療養看護をした
- その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした
というのが要件になります。
どの程度寄与しないといけないか、どう立証するかは、非常に困難な問題になってくるのですが、ここでは、一応こういうものだと理解してもらえるといいでしょう。
相続人2人で各2分の1の相続分で、相続財産が1500万円の場合で、寄与分が500万円とされると、
(1500万円-500万円)×2分の1=500万円
が各自の相続額となり、寄与した人はそれに500万円がプラスされることになります。
2022年5月16日