弁護士の佐野です。
遺留分については今回で最後になります。
6.遺留分侵害額の請求
額が決まるとようやく請求できることになるのですが、誰に請求できるかについては民法1047条で順番が定められています。
民法1047条も非常に読みにくい条文になっています。
見ていきましょう。
まず第1項本文で、受遺者という遺言でもらった人、あるいは、受贈者という贈与を受けた人は、もらった限度で遺留分侵害額を負担することが定められています。
それ以上は負担しなくてもいいということです。
1項1号は、受遺者と受贈者とがあるときは、受遺者が先に負担するとしています。
遺言でもらった人が先に負担し、それでも足りない場合、それ以前に贈与を受けた人が負担する、ということになっています。
2号は、受遺者が複数のとき、または受贈者が複数のときで贈与が同時にされた場合は、もらったものの価額の割合に応じて負担する、としています。
受遺者は当然同時になりますが、受贈者は同時とは限りません。同時の場合、どちらが先ということが分かりません。
そのため、もらったものの比率で負担するということですね。
その比率は、もらったものの価額から遺留分を引いた額によります。
例えば、ABそれぞれの遺留分が1000万円の場合で、Aが5000万円、Bが3000万円同時にもらったとします。
その場合、A:B=(5000万円-1000万円):(3000万円-1000万円)=2:1
の割合で負担しなければなりません。
遺留分権利者は、AB両方にそれぞれの負担分を請求しなければなりません。
ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う、としています。
亡くなった人が遺贈や同時に贈与していたら、負担割合を変更できるということになります。
贈与したときには考えていなかったけど、後になって遺言を書くときに、問題になるかもしれないと思って、紛争を予防するような場合が考えられます。
3号は、受贈者が複数のときで同時でない場合は、後のものから前にさかのぼって負担する、とされています。
2項では、遺贈や贈与されたものが転売されるなどしても、まだ残っているものとして計算しますよということと、負担付きだったらその負担分は減らしますよ、ということを規定しています。
3項では、遺留分権利者が亡くなった方の借金を承継し、それを返済したような場合は、その限度で、遺留分侵害の負担を減らせますよ、ということが規定されています。
さて、請求を受ける受遺者や受贈者に返済のお金がなかった場合はどうなるでしょうか。
それは4項が、遺留分権利者が負担しなさいよと規定しています。
つまり、他の人にお金があっても、その人には請求できないということになるんですね。
ただし、5項で、受遺者または受贈者が請求すれば、裁判所は、返済額の全部または一部について、支払につき相当の期限を与えることもできるとされました。
今はまだ払えないが、ちょっと待ってね、ということは言えるということです。
7.遺留分侵害額請求の期間制限
最後に、遺留分侵害額請求権には期間の制限があることに注意しないといけません。
民法1048条は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅するとしており、また、相続開始の時から10年を経過したときも、時効によって消滅するとしています。
10年というのは確定的な期限ですが、1年というのは、亡くなったことと、贈与や遺贈があったことを知ったときからという相対的な期限です。
おじいちゃん大事な土地をあんな人にあげたんや!と驚いて戸惑っている内に、1年経過すればもう請求できません。
早く弁護士に相談して手を打ちましょう。
2022年5月9日