弁護士の佐野です。
遺言執行者について書いてきましたが、今回で最後です。
6. 遺言執行者の復任権
遺言執行者が行うことは多岐にわたることもあります。
それを全て自分でやるとなると大変です。
そこで、専門家に頼んでしてもらうことも多々あります。
当社団法人の山本行政書士も、多数ご依頼を受けて仕事をしています。
ま、それは当たり前のことですね。
ところが、改正前は、遺言者がその遺言に反対の意思を表示したときは、この限りでないとされていたものの、やむを得ない事由がなければ、第三者にその任務を行わせることができない、とされていました(改正前民法1016条1項)。
これはどういうことかというと、遺言をする人は、特にその人を信頼して遺言執行者になってもらうわけです。他の人にさせるなんてとんでもない、というところでしょうか。
それはそうですね。
この条文の趣旨は、いわば丸投げはダメですよ、ということです。
遺言執行者が土地を売って分割しなければならないとき、売却自体を専門家に任せるのはいいとして、売却後の分割まで任せるのはダメですよ、ということになります。
改正法では、やむを得ない事由が必要だったのが、自分の責任で第三者にその任務を行わせることができる、とされました(改正民法1016条1項)。
ちょっとやりやすくなったと言えるでしょう。
7. 遺言執行の妨害の禁止 1
遺言執行者がわざわざ指定されている以上、相続人は、遺言の執行を妨げるようなことはできませんよ、ということが規定されていました(民法1013条1項)。
でも、実際にそういうことが起こったときはどう処理するの、という規定はありませんでした。
これについては改正法で新設され、そういう行為は無効ですよ、と定められました(民法1013条2項)。
ただ、そうすると、何も知らずに関与した人が不利益を被ります。そこで、善意の第三者に対抗することができない、とも定められました。
善意というのは、遺言に反することをした相続人には権利がない、ということを知らないことをいいます。第三者は、遺言があるかどうかや、その内容も知り得ませんので、保護してあげる必要があります。
ここからはちょっと難しい話です。
例えば、相続人がABいて、遺言でAに土地をあげると書かれていたところ、Bが法定相続分である2分の1をCに売ってしまって登記がなされたとします。
この場合、本来Aの分の2分の1を超える本来Bの分の2分の1については、Aは登記を備えなければ、第三者に対抗することができません(民法899条の2第1項)。
すでにCが登記を備えているので、Aはいくら遺言が書かれていたとしても、土地は全部自分のものだと言えなくなってしまいます。
Aとしては、Bにその損害を請求するしかありません。
上の例は遺言執行者がいない場合の話なのですが、いる場合だと、1013条2項で、Bが処分権限がないことについてCが知らなければ、登記がなくてもCはAにこの土地の半分は自分のものだと言えてしまいそうです。
しかしこれではバランスが悪いので、裁判になれば、登記が必要だと言われるようになるだろうと思います。
結局、とにかく登記しろ、ということになります。
相続登記が義務化されたこともあり、登記には注意ですね。
8. 遺言執行の妨害の禁止 2
遺言執行の妨害の禁止1では、相続人が妨害したときのことが想定されています。
ところが、相続人の債権者や相続債権者は、相続財産についてその権利を行使することを妨げない、とされました(民法1013条3項)。
相続人の債権者は、文字どおりですね。
相続債権者は、被相続人の債権者です。
相続人がやっても無効でも、相続人の債権者がやるのは有効になり得て、それは相続債権者も同じだということです。
これについては、債権者は結局難しいことをやることになりますので、弁護士に依頼する必要があります。
相続人側としても、遺産分割協議で早々に遺産を分けてしまって、確保する必要があるかもしれませんね。これも弁護士に相談すべきでしょう。
ケースバイケースでもありますので、ここではここまでにしておきます。
9. まとめ
他にも、遺言執行者がやめたいときはどうするのとか、報酬はあるのとか規定されていますが、ここでは触れません。
遺言執行者の職務って結構大変だ、ということをご理解いただけたかと思います。
逆に言うと、きちんと指定していれば、とても頼りになるということです。
何でもかんでも相続人全員でしなければならないとなると、とても大変です。
遺言執行者がいれば、揉めるとしても、遺産分割自体は終わらせることができます。
みんなが合意に至るまで遺産分割が終わらず、遺産が宙ぶらりんになると、結局放置されて、それこそ預金がほったらかしにされたりしかねません。
遺言執行者の指定は、ぜひしていただきたいところです。
2022年3月14日