弁護士の佐野です。
今回は、遺言の撤回について書いてみたいと思います。
何度か、遺言を書いておいた方がいいよ、ということを書いてきました。
しかし、遺言を書いた人がいつまでも同じ気持ちでいるとは限りません。
気が変わることもあれば事情が変わることもあります。
撤回や変更の仕方についても、説明しておくべきかと思いまして、今回はこのテーマにしました。
目次
1. そもそも遺言の種類は?
2. 遺言の変更
3. 遺言の撤回
4. 遺言の破棄
5. 撤回された遺言の効力
1. そもそも遺言の種類は?
普通の方式による遺言には3種類あります。自筆証書、公正証書、秘密証書というものです(民法967条)。
特別の方式は、今にも死にそう(民法976条)などの場合ですが、かなり例外的で私も見たことがありません。なので、ここではあえて触れません。
自筆証書遺言と秘密証書遺言の違いは、封がされていることです。
封印の仕方に細かい定めがあります(民法970条)。
ただし、その方式に欠けるものがあっても、自筆証書遺言としての効力を有しています(民法971条)。
ただ単に、遺言を作成して、そのことを秘密にしているという意味ではありません。
秘密証書遺言を作成したよと伝えていても、秘密証書遺言です。
封印がされているということは、遺言は本人が作成したものに間違いないだろうという推定が強くなると思います。
誰かが納得しないような内容であるからこそ秘密にし、争われたくないからこそ秘密証書遺言にするということでしょうから、動かしがたいということになるのでしょう。
紛争になった例は私は経験がありません。
なお、勝手に開封すると、5万円以下の過料が課されることがあります(民法1005条)。
自筆証書遺言と公正証書遺言は、公証役場で作成してもらうかどうかの違いがあるということと、きちんとした文章で作成してもらえるということと、遺言の検認手続が不要(民法1004条2項)であるということが違います。
自筆証書遺言は、検認を経ないで勝手に遺言を執行すると、5万円以下の過料が課されることがあります(民法1005条)。
公正証書は、即時に執行できるところがとても使い勝手がいいところです。
誰かが亡くなって、心痛のところに相続人が集まって自筆証書遺言の検認手続をするというのは、とても面倒です。
自筆証書遺言の内容が分からないと、みんなはらはらして検認手続をし、改めて内容を確認し、紛争になったりします。逆に、自筆証書遺言の内容が分かっていて紛争にならないようなら、検認手続は単に面倒でしかありませんね。
2. 遺言の変更
遺言の書き方は方式がかなり厳格で、少し間違えただけでも全部が無効になったりしかねません。そういう判例は多数あります。
そのため、変更についても、厳格に定められています(民法968条3項)。
- 当然、遺言者本人が
- その変更の場所を指示し
- これを変更した旨を付記して
- 特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ
その効力を生じません。
中途半端に変更しても、認めてもらえないということです。
これは自筆証書遺言だからできることで、公証役場が関わる公正証書遺言や、封をしてしまっている秘密証書遺言ではできません。
3. 遺言の撤回
そうはいっても、遺言を作成したのは遺言者本人です。
気も変われば事情も変わります。
簡単に変えられるようにしてもらわないと困りますし、いったん遺言を書いてしまうと、二度と遺言は書けないということになると大変です。
そこで、遺言者は、いつでも遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができるとされています(民法1022条)。
「いつでも」というのは無制限ですが、「遺言の方式に従って」というのが制約となります。
後で書きますが、自筆証書遺言、秘密証書遺言はいいとして、公正証書遺言ですと、きちんと方式に従わないといけませんね。
2通目の遺言を作成した場合、内容が抵触していると、抵触している部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます(民法1023条1項)。
2通目の遺言を作成した場合で、例えば1通目で土地を長男に相続させると書いていたのに、2通目では土地を次女に相続させると書いていれば、それは抵触していますので、前の遺言の「土地を長男に相続させる」というのは無効になります。
また、遺言が、遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合についても、撤回したものとみなされます(民法1023条2項)。
例えば1通目で土地を長男に相続させると書いていたのに、その後土地を次女に贈与したら、それは抵触していますので、前の遺言の「土地を長男に相続させる」というのは無効になります。
書いてみれば簡単ですが、実際には書き方が微妙であったり、内容がよく分からなかったり、文字が判別できなかったり、公正証書遺言はきちんとしたものだったのに、その後痴呆になり、震える字で全然違うことを書いていたりすると、揉める元となります。
あまりこういう形での遺言の撤回はお勧めできません。
4. 遺言の破棄
そこで、やっぱり破棄がいいのかなと思ったりします。
公正証書遺言で作成した場合、きちんと公証役場で変更、撤回した方がいいです。
自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合、相続人が遺言を破棄してしまうと、相続人になることができないとなっています(民法891条5号)。
しかし、遺言者本人は別に好きにしていいわけです。
法律上も認められていて(民法1024条)、遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす、とされています。
また、遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とされています。
ま、当然ですね。
破棄してしまえば、新たに1通目を書き直せばいいだけです。
きちんとしたものを作成すれば、ややこしいことはありません。
複雑な遺言を書いていても、手間はかかりますがこの方が確実です。
多少の簡単な変更でなければ、破棄するのがいいと思います。
変更の必要性があるとすれば、すでに書いてある付言事項を残しておきたいとか、このときにこの理由でこう変更したという履歴を残したいような場合ですかね。
5. 撤回された遺言の効力
1つ注意しなければならないのが、遺言を撤回した場合に元の遺言の効力が復活するかどうかです。
例えば、
1通目で長男に全部相続させるという遺言を書いた。
2通目で、1通目を撤回して、次女に全部相続させるという遺言にした。
3通目を作成した。
という場合、3通目で2通目を撤回したり取り消したり、効力が生じなくなったとしても、1通目は撤回されて無効になったまま、ということになります(民法1025条本文)。
2通目を撤回したからといって、1通目に戻すかどうかは分からんでしょ、ということですね。
ただし、例外があって、2通目を撤回した理由が、錯誤、詐欺又は強迫による場合は、復活するということになります(民法1025条但し書き)。民法改正で、錯誤が付け加えられました。
2通目を書いたところ、長男の善意を誤解したり(錯誤)、次女にだまされたり(詐欺)、次女の夫に脅されたり(脅迫)、といった理由を書いて、1通目の遺言を復活させると明記して、2通目をきちんとした方式で撤回したら、まず問題なかろうと思います。
まあでも、そうなると、1通目と3通目、あるいは全部残しておかなければなりません。
そうするくらいなら、3通目を作成せずに2通目を破棄するか、「今までの遺言は全部撤回する、改めてこの遺言を残す」と、3通目を作成するのがいいでしょう。
2022年2月21日