弁護士の佐野です。
引き続いて、今度は土地を手放すための制度を見てみましょう。
2.2.土地を手放すための制度
相続土地国庫帰属制度が制定されました。2023年4月27日施行ということになっています。
法律の名前は、相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律です。
パンフレットにならって、どんな制度か、誰が申請できるか、どんな土地なら国にもらってもらえるか、費用はどうなるかを書いていきます。
2.2.1.どんな制度か
パンフレットでは、都市部への人口移動や人口の減少・高齢化の進展などを背景に、土地の利用ニーズが低下する中で土地所有に対する負担感が増加しており、相続された土地が所有者不明土地の予備軍となっていると言われている、ということです。
そこで、所有者不明土地の発生予防の観点から、相続等によって土地の所有権を取得した相続人が、法務大臣(窓口は法務局です。)の承認により、土地を手放して国庫に帰属させることを可能とする制度が創設された、ということです。
まあ、その理由はそのとおりだとは思います。
所有者不明の田舎の土地だと、そういうケースは多いと思います。
相続したことすら知らない人も多いでしょう。
ただ、「価値がない」から放置されるというのが原因だと思います。
その点を考慮してくれているなら、まあまだいい制度かもしれませんが、後ほど書きますが、ちょっと使い勝手が悪そうです。
また、都市部での所有者不明の場合、価値があっても権利関係がややこしいということもあり得ます。
1億円の土地でも、相続人が100人いたら、1人あたり100万円で、下手をすると手続きをしようとした人だけが100万円どころではない負担を強いられるかもしれません。
相続ではなく、共有の場合で、共有者の所在等が不明な場合、その持ち分をもらえる制度も作られましたが(民法262条の2、262条の3)、裁判しなければなりません。
そんなときに、国にもらってもらうには、共有者全員でしなければならないのです。
これってどうなんでしょ。
詳しく見ていきましょう。
2.2.2.誰が申請できるか
パンフレットには、「基本的に、相続や遺贈によって土地の所有権を取得した相続人であれば、申請可能です。制度の開始前に土地を相続した方でも申請することができますが、売買等によって任意に土地を取得した方や法人は対象になりません。」「また、土地が共有地である場合には、相続や遺贈によって持分を取得した相続人を含む共有者全員で申請していただく必要があります。」
とあります。法律上は、「相続等によりその土地の所有権の全部又は一部を取得した者」に限定されています(相続土地国庫帰属法2条1項)。
ただし、共有の土地の場合は全員でしなければなりませんが、誰かが相続や遺贈で共有持分を取得していれば、その他の共有者は相続や遺贈で取得していなくてもかまわないということです。
相続等以外というのは、売買等によって任意に取得した人という記載からもうかがえるように、自分の意思で取得した人、ということになりそうです。
自分の意思で取得しておいて、国庫帰属を求めるというのは考えられないということかもしれません。
まあ、ここは、先ほども書きましたが、共有者全員で申請しなければならないというのが現実的には大きな問題ですが、単独所有者の場合は大丈夫かなというところです。
共有者が所在不明などの場合は、その持分の整理のため、裁判をするしかないでしょう(民法262条の2、262条の3)。
2.2.3.どんな土地なら国にもらってもらえるか
パンフレットによると、通常の管理または処分をするに当たって過大な費用や労力が必要となる土地については対象外となるそうです。詳細は、現時点では未定です。
結局どんな土地ならもらってもらえるかですが、相続土地国庫帰属法2条3項で申請OKとされているのは、
一 建物の存する土地
二 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
三 通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地
四 土壌汚染対策法(平成十四年法律第五十三号)第二条第一項に規定する特定有害物質(法務省令で定める基準を超えるものに限る。)により汚染されている土地
五 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地
となっています。
そのうち、場合によっては調査され(相続土地国庫帰属法)6条、その上で相続土地国庫帰属法5条1項でダメとされているのは、
一 崖(勾配、高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限る。)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
二 土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
三 除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
四 隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地として政令で定めるもの
五 前各号に掲げる土地のほか、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるもの
とされています。要するに、
更地にすること、他人の権利がついていたり使用されたりしていないこと、汚染されていないこと、揉めていないこと
がまず前提にあり、
手間暇かかる崖、何か大きいものが放置されたりしている土地、地下に邪魔なものが埋まっている土地、隣と揉めている土地、その他手間暇がかかる土地
はダメで承認を受けられないということになります。
後になってダメだと分かった場合、承認が取り消され、その土地は申請した人に戻されます。
しかも、損害賠償責任まで負わされることがあります。
これはリスク高いですよね。
承認を受けられるのは、ほぼ売却できるような物件しか残らないのではないでしょうか。
売却して現金にしやすい、少なくとも誰かにただでもらってもらえるような土地について、売却しやすいように更地にした上、国庫に寄付しようとしているのに、危ないものはダメ、後になって分かったら取り消し、しかも損害賠償と来るわけです。
そんな一方的に国に都合のいい話で、「所有者不明土地の発生の抑制を図る」(相続土地国庫帰属法1条)という政策的目的が達成できるとは思えません。
特に空き家問題だと、更地にするだけでもそれなりの費用がかかります。
次に書きますが、国庫帰属の費用についても結構かかることになります。
リスクを背負って費用を負担して国に寄付するくらいなら、相続登記義務化の流れで、自分で持っている方がマシだということになるのではないでしょうか。
ただ、現実問題としては、相続人がいらないと思っている不動産で、例えばいずれ別荘地にしようと思って購入した土地が、森になってしまったりすると、国は受け取らないということになると思います。そうなるとどうすることもできません。こういったケースは多いと思います。
2.2.4.費用はどうなるか
パンフレットでは、申請時に審査手数料を納付いただくほか、国庫への帰属について承認を受けた場合には、負担金(10年分の土地管理費相当額)を納付いただく必要があります、とあります。
詳細は未定だそうですが、10年分の土地管理費相当額を支払わなければなりません(相続土地国庫帰属法10条)。
詳細は未定であるとしても、仮に月額1万円の管理費がかかるということであれば、なんと120万円を支払わなければなりません。
ちなみに、現状の国有地の標準的な管理費用(10年分)は、このようになっているそうです。
粗放的な管理で足りる原野 約20万円
市街地200㎡の宅地 約80万円
例えば、相続人不明の空き家の場合、何十万円もかけて相続人調査をし、共有持分の整理に何十万円もかけて裁判を起こし、更地にするのに100万円をかけて、さらに例えば80万円を支払って、申請費用を出し、承認をいただけたらありがたく受け取っていただける、ただし後日承認取り消しもあり得るし、損害賠償責任のリスクも背負う、ということになります。
いや~、考えられないでしょ。
国の政策だからみんなのために安く譲ってね、ということならまだしも、金を積んだらいい物件だけもらってやるよ、ということになってしまうのです。
2022年1月25日