ブログ

相続登記が義務化されました。気を付けるべきはどこ? 2

2022/01/18
佐野 就平





弁護士の佐野です。




引き続き、相続登記のお話をしますね。


2.改正・制定のポイント


いろんな改正・制定がされていますが、ここでは相続に絡んだ点に絞って書いていこうと思います。

相続に関するポイントは、

1 正確な登記を促す制度

2 土地を手放すための制度

3 遺産分割に関する新たなルール

となります。

ここでは、1の正確な登記を促す制度を取り上げます。

2.1.正確な登記を促す制度


正確な登記を促すために、登記申請の義務化と、手続の簡素化・合理化がされました。

では、具体的に見ていきたいと思います。


2.1.1.相続登記の義務化


これは、不動産登記法76条の2の新設によって規定されました。

具体的にどう義務化されたかというと、誰かが亡くなったときは、

   その方の相続人として所有権を取得した者、または、亡くなった方の相続人に対する遺贈で所有権を取得した者

は、

   自分が相続人となる方が亡くなったことを知り、かつ、所有権を取得したことを知った日から、
   3年以内に
   所有権の移転の登記を申請「しなければならない」

とされました。

ちなみに、相続分に応じてされた登記がされた後に遺産の分割があったときは、当該遺産の分割によって当該相続分を超えて所有権を取得した者は、当該遺産の分割の日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない、ともされました。

所有権を取得したら3年以内に登記しなさい、3年以内に遺産分割ができなくて相続分で登記した場合は、その後遺産分割ができたときから3年以内に登記しなさい

ということになります。

これには罰則があって、不動産登記法164条で、申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処せられます。

義務を明記して、罰則まで付けているので、「義務化された」ということになるんですね。


ただ、罰則は、「正当な理由がないのに申請を怠ったとき」という限定があります。

行政側が、正当な理由がないことを立証しなければならないわけですが、正当な理由があったこと自体は相続人が主張しなければならないでしょう。

相続人が、お父さんが死んだことを知らなかったと主張すれば、行政が、あなたはお父さんが死んだことを知ってたでしょ、なぜなら~~~、と立証しなければならないわけです。


みせしめのようなケースで罰則が科されることはあるでしょうが、実際のところはほとんど適用されることはないのではないかと思われます。


登記申請を義務化するのはまあいいとしても、登記申請を促すような何か恩恵がないと、現実には進まないのではないでしょうか。

例えば、1000万円の価値、固定資産評価額500万円の土地の相続があったが、そんな土地いらないと思っている人がいると考えてみましょう。
親族が住んでいて、お父さんがその人にあげたから自分は所有権はないし、自分のものだとは思っていないというような場合です。

相続登記の登録免許税は0.4%かかります。登録免許税は4万円ですね。
固定資産税は1.4%かかります。固定資産税は毎年7万円ですね。

いらないから登記しないという人にとっては、なぜ登録免許税を4万円も払って、司法書士に別途費用を支払って、固定資産税を毎年7万円支払い続けなければならないのか、と思ってしまいますよね。

余計な紛争も発生しそうです。
固定資産税の支払い義務は、相続登記をしようがしまいが発生しています。
自分が払っていなくても、知らない間に誰かが払っている場合があります。


相続財産を含む共有名義の資産の場合、共有資産代表者というのがあって、その人に固定資産税の請求が行きます。

おそらく、自治体によって基準が微妙に違ったりするほか、ケースバイケースで代表者が決められています。

ただ、ぶっちゃけ、行政が固定資産税請求のため行政の都合で決めているだけです。

行政としては、気持ちよく払ってくれる人がいるなら、その人を代表者にしていればいいわけですから。

それを、あえて相続登記をすると、支払義務者が明確になるので、押し付け合いの紛争になるかもしれません。

登録免許税の特例はあるようですが、ちょっと使える場合が少なそうです。

https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000017.html


だからといって、放置するわけにはいきません。

今回の改正法は、なんと、昔亡くなった方の登記であっても適用されてしまいます

普通義務化される場合は、今まではいいから今後はちゃんとしてね、というものですが、それではこの問題の解決につながりません。

今までのも問題にするよ、ということになってしまいました。

行政のやり方として疑問ですが、それはともかくとしてもこの問題に取り組む意欲は窺えます。

いつまでに登記すればいいかというと、

相続人が、被相続人が亡くなったことと、それによって所有権を取得したことを知ってから3年

改正法の施行日から3年、つまり2024年4月1日

のいずれか遅い方となります(改正附則)。

これは注意です。


2.1.2.相続人申告登記


これは、不動産登記法76条の3の新設で規定されました。相続人である旨の申出等とされています。

相続登記の義務を負う人は、登記官に対し、登記名義人が亡くなったことと自分がその人の相続人である旨を申し出ることができる、とされました。

これは、「できる」となっているので、義務ではありません。

しかし、相続登記の義務を果たしたことになるので、10万円の過料に処せられることはありません。

ただし、その後、遺産分割で所有権を取得したら、3年以内に登記の申請をしなければなりません

先ほどの例だと、こちらの方が使い勝手が良さそうです

申し出ると、登記官が、職権で、その旨並びに当該申出をした者の氏名及び住所その他法務省令で定める事項を所有権の登記に付記することができる、とされています。

実際には、登記官は登記しなければならないというのと同じですが、登記官に義務を負わせるのは良くないので、してもいいよという規定ぶりになっていると思われます。

所有権の登記ではないので、私が相続人ですよという付記がなされるというだけです。

これだと、とりあえず相続人が相続人だと申告しておいて、その後実際に所有権を取得した人、つまりその不動産が欲しいという方が改めて所有権の登記を申請すればいいことになります。

相続登記の義務化のことより、むしろこちらの義務を免れる方法の方が大事なのではないかと思います。

持分は関係ないので、相続人全員の資料を集める手間暇も必要ありません。

なお、1人が全員の分をまとめて申請することもできるということだそうですが、条文上はよく分かりません。
委任状で誰かに任せてもOKという意味かなと思います。



2.1.3.住所等の変更登記の申請の義務化


これは、不動産登記法76条の5の新設で規定されました。

名前や住所などが変わったときは、2年以内に変更登記をしなければならないというものです。

これにも罰則があって、不動産登記法164条で、申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、5万円以下の過料に処せられます。

この場合の正当な理由は、あまり考えにくいですね。

相続の場合と異なり、名前が変わったり引っ越ししたりすれば、自分は分かっていますので。

寝たきりになっている間に離婚して名字変わったとか、極めて例外的な場合しか正当な理由とはならないように思います。

しかも、登録免許税は1件1000円です。

めんどくさいという以外に、申請しない理由は考えにくいですね。

ただ、罰則が適用されることはあまりないのかなという感想は、相続登記の場合と同じです。

また、この住所変更についても、今回の改正法はさかのぼって適用されてしまいます。

いつまでに変更登記をしなければならないかというと、

公布から5年、つまり2026年3月29日

となります(改正附則)。

これは注意です。


2.1.4.他の公的機関との情報連携・職権による住所等の変更登記


これは、不動産登記法76条の6の新設で規定されました。

登記官が職権で変更できるというものです。


法律上は、名前や住所が変わったと「法務省令で定める場合には、法務省令で定めるところにより」とされているので、よく分かりません。


パンフレットによると、想定されているのは住基ネットとの連携のようです。

法務局が定期的に住基ネットを検索し、変更を発見したら変更するということです。


ただし、本人の了解がないと、勝手には登記できません。

パンフレットには「本人の了解を得て」とあるのですが、法律上は「申出があるときに限る」とされています。

また、パンフレットには、検索するには生年月日などの検索用情報が必要であるということです。

おそらく、およそ不動産を取得したら、その登記申請の際に、法務局が生年月日などを記載するよう誘導して、事前に承諾書を記載してもらう(あるいは司法書士にそのようにお願いする)という扱いになるのではないかと思います。

拒否できるお願いベースなら分からなくはないのですが、事実上の強制になるのではないかと危惧されるところです。


2.1.5.DV被害者等保護のための登記事項証明書等の記載事項の特例


これは、不動産登記法119条6項の新設で規定されました。

登記に住所が記載されて、それに罰則まで定められているので、住所を記載すると悪影響がある人は困ります

また、職権で勝手に現住所を調べられて変更される場合もあり得ます

不動産を取得したときは問題なかったけど、その後DV被害に遭って逃げているというような場合不動産取得時に、将来職権で変更してもいいよという承諾書を書いていたりすると、知らない間に加害者に住所が知られる危険性が出てきます。

そこで、

   住所が明らかにされることにより、人の生命若しくは身体に危害を及ぼすおそれがある場合

   これに準ずる程度に心身に有害な影響を及ぼすおそれがあるものとして法務省令で定める場合

のいずれかの場合(法務省令は現時点では分かりません)には、申出があったときは、登記事項証明書記載の住所は開示されないということになります。

まあ、ある程度安心といえば安心ですが、登記には住所が記載されてしまいます。

不動産を持っている被害者は、全て対処しないと、どういうことになるか不安なところです。


また、どういう場合に申し出られるか、申出だけでいいのか、何か証明が求められるのかで、大きな影響が出るかと思います。


なお、開示される住所は、弁護士や支援団体、法務局の住所などが想定されているということです。ほとんど全件で法務局の住所が使われるのではないでしょうか。



2.1.6.所有不動産記録証明制度


これは、不動産登記法119条の2の新設で規定されました。

誰でも、自分が所有権の登記名義人になっているものについて、一覧をもらえることができます。

さらに、相続人は、亡くなった方が所有権の登記名義人になっているものについて、一覧をもらえることができます。

これはありがたいです!非常に助かります!ナイス法改正です!


これがあれば、漏れがなくなるんですよね。

固定資産税納税通知書があれば、ある程度は把握できるのですが、非課税の不動産があると漏れが出てきます。

相続で私道が漏れることが出てしまって、将来その私道を使う周りの人が迷惑を被ったりします。

公道と思って安心していたら、私道だと分かり、修繕費用などを誰がどう負担するかで揉めたりします。

固定資産税納税通知書以外には、名寄帳を役所で取得するのがいいとよく言われます。

これは、誰がどの不動産を所持しているのかが記載されている台帳です。

正確なのですが、別途取得しなければなりません。

また、非課税の私道は載らないことも問題です。

結局漏れが出るんですよね。

しかも、京都市には大きな問題がありました。

京都市では、道路をはじめとする非課税不動産が、名寄帳にも評価証明書にも表示されないのです。

非常に煩雑な調査を強いられる上、漏れが出てしまうのです。

そこで、2018年3月22日、私が京都弁護士会副会長の時、京都司法書士会と連名で京都市に対し要望書を出しました。

京都弁護士会と京都司法書士会とが連名で出したのは初めてだと思います。

「名寄帳等への非課税不動産の登載について(要望)」というものですが、まさにこの問題を正面から取り上げました。

https://siho-syosi.jp/assets/topics/doc/20180322.pdf

ところが、現時点でも改善されていないと聞いています。

おそらく、京都は古い都市なので、こういったものが多々あり、今さら整理などできないということではないでしょうか。

これが一気に解決するわけです。


市民からすれば、法務局だろうが市町村だろうが同じ行政なので、都合つけろよ、結局縦割り行政の弊害か、ということになりますが、実際にはなかなか難しいところです。

ようやく大きな課題が1つ改善されることになりました。

2022年1月18日

カテゴリー一覧
固定資産税
国税局の調査
家族信託
寄与
年齢計算
弁護士
死因贈与
法的手続の流れ
特別代理人
特別受益・持ち戻し
相続における期限
相続人
相続人がいない
相続分
相続放棄
相続登記義務化
祭祀承継者
税理士
自己紹介など
行政書士
被相続人の預貯金の取り扱い
遺産分割
遺留分
遺言執行者
遺言書
遺言書保管制度
配偶者居住権
限定承認
離婚
養育費
タグ一覧
コロナウイルス
みなし譲渡所得
代襲相続
使い込み
内縁
単純承認
固定資産税
地域との関わり
変更登記
家族信託
寄与分
届出期間
年齢計算
廃除
所有不動産記録証明制度
所有者不明土地
持ち戻し
未成年者
死因贈与
法定相続分
法的手続
特別の寄与
特別代理人
特別受益
相続の期限
相続人不存在
相続人申告登記
相続土地国庫帰属制度
相続放棄
相続登記義務化
相続税
祭祀承継者
税務調査
税金の補足率
老後の備え
贈与税
路線価
遺産
遺留分
遺言
遺言執行者
遺言書
遺言書保管制度
配偶者居住権
配偶者短期居住権
限定承認
離婚
離婚届
離婚後の子の戸籍と氏
離婚後の氏
預貯金
養育費

TOP