弁護士の佐野です。
今回は、相続登記義務化について、数回に分けて書いてみたいと思います。
司法書士が書くべき?とも思いますが、義務化、罰則がある、という点では弁護士が書くべき問題かなと思います。
また、制度そのものの解説はあちこちのサイトに任せておいて、制度の使い勝手というか、問題点というか、気をつけるべき点を書いてみたいと思います。
目次
1. 相続登記の義務化
1.1.1. 所有者不明土地とは?
1.1.2. 所有者不明土地の何が問題か?
2. 改正・制定のポイント
2.1. 正確な登記を促す制度
2.1.1. 相続登記の義務化
2.1.2. 相続人申告登記
2.1.3. 住所等の変更登記の申請の義務化
2.1.4. 他の公的機関との情報連携・職権による住所等の変更登記
2.1.5. DV被害者等保護のための登記事項証明書等の記載事項の特例
2.1.6. 所有不動産記録証明制度
2.2. 土地を手放すための制度
2.2.1. どんな制度か
2.2.2. 誰が申請できるか
2.2.3. どんな土地なら国にもらってもらえるか
2.2.4. 費用はどうなるか
2.3. 遺産分割に関する新たなルール
3. まとめ
1.相続登記の義務化
2021年4月21日、民法と不動産登記法が改正され、新たに「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が制定されました。
2023年4月から段階的に施行されます。民法は23年4月から、相続登記義務化は24年4月から、その他は現段階では未定のものもあります。
この中に、相続登記を義務にしましたよ、というのがあるために、一般的には相続登記の義務化と言われていますが、「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し」というのが本来のテーマです。
なぜ義務化されたのか?
テーマのとおり、所有者不明土地が多すぎるから。
これに尽きますね。
法務省は、パンフレットを作成して宣伝に努めています。
https://www.moj.go.jp/content/001360926.pdf
以下、このパンフレットをベースにしつつ、書いてみたいと思います。
1.1.1.所有者不明土地とは?
パンフレットによると、所有者不明土地とは、
1 不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地
2 所有者が判明しても、その所在が不明で連絡が付かない土地
をいいます。
法律上は、「所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地(土地が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地の共有持分)」(民法264条の2第1項)となっており、建物も同様に規定されています(民法264条の8第1項)。
1.1.2.所有者不明土地の何が問題か?
パンフレットによると、全国のうち所有者不明土地が占める割合は22%にも及び、九州本島の大きさに匹敵するそうです。
そして、今後、高齢化の進展による死亡者数の増加等により、ますます深刻化するおそれがあるということです。
これはそのとおりだと思います。
また、パンフレットによると、土地の所有者の探索に多大な時間と費用が必要となり、公共事業や復旧・復興事業が円滑に進まず、民間取引や土地の利活用の阻害要因となったり、土地が管理されず放置され、隣接する土地への悪影響が発生したりするなど、様々な問題が生じている、ということです。
これはどうなんでしょうね。
都市部ではむしろ放置建物の方が問題があるはずです。
ネズミやゴキブリなどの害虫の巣になったり、崩落して事故が生じたり、不審者が使用したりなど、ご近所のご迷惑になるはずです。
しかし、放置建物はあまり価値はなく解決したところで経済的には関係がないのか、統計上上がってこないのか知りませんが、パンフレットに書かれていないということは、あまり重要に思われているとは思えません。
土地が管理されず放置され、隣接する土地への悪影響があるというのも、例えば空き地に雑草が生えて大変だというような場合、所有者不明土地管理命令制度(民法264条の2)や管理不全土地管理命令制度(民法264条の9)が新設されましたので(建物は264条の8、264条の14)、その使い勝手は分からないものの、直接登記が問題にはなりません。
また、公共事業を理由に出されても、ちょっとピンときません。
道路の拡幅などでしょうか。はたまた箱物造りのための土地の買収でしょうか。
行政なら粛々と所有者を調査できる気もするのですが。
自分が面倒だからお前らやれよ、みたいなことだとどうもなあという気もします。
復旧・復興事業は、所有者不明の土地建物を復旧したところで、そもそも使われていなかったわけです。
登記がされていないことで所有者不明で問題となるというわけではありません。
それよりも、災害で所有者が亡くなったりして分からなくなることが問題なので、この制度創設の理由にはならなさそうです。
他方、民間取引や土地の利活用の阻害要因となるというのは、弁護士としては非常によく分かるところです。
結局、この制度は、正確な登記を促進し、放置不動産の民間での有効利用を活用する制度と考えるのがいいのかなと思います。
所有者不明土地、つまり正確な登記がなされていない原因は、パンフレットによると、66%が相続登記の未了、34%が住所変更登記の未了だそうで、合わせてほぼ100%です。
それを何とかしようとしているので、「相続登記の義務化」と言われるのでしょう。
正確な登記は弁護士としてもありがたいし、市民にとってもいいことだと思います。
だからといって、安易に市民に義務を課してもいいとは思いません(ましてや理由にならない理由で義務を課すのはどうかと思います)が、まあいい方向の改正だと思います。
2022年1月11日