弁護士の佐野です。
ここでは、そもそも特別受益にならないものについて触れます。
ここでは2つ挙げておきます。これらも、検索すれば多くのサイトで詳細に説明されていると思います。
もっと気になる方は検索してみて下さい。
3.1. 特別受益にならないもの 生命保険
生命保険は、相続人の1人を受取人として指定した場合、著しく不公平となるような場合でなければ、特別受益になりません。
先ほどの事業承継の特別受益対策に有用な方法の1つです。
これについては、最高裁第2小法廷平成16年10月29日判決があります。詳細が気になる人は検索してみて下さい。丁寧に解説しているサイトが見つかることでしょう。
最高裁判例検索の裁判要旨には、次のとおりあります。
被相続人を保険契約者及び被保険者とし,共同相続人の1人又は一部の者を保険金受取人とする養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権は,民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないが,保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率,保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して,保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,特別受益に準じて持戻しの対象となる。
1文が長く分かりにくいですね。判決文の特徴です。
要するに、
誰か相続人1人を生命保険の受取人として指定していても、それは特別受益には当たらないですよ、
でも、民法903条の脱法になるような著しい不公平になるようなら、特別受益に準じて扱います、
というものです。
どうなったら「著しい不公平」なのかは難しいところですが、財産をめいっぱい生命保険に変換するようなことをしたりすれば著しい不公平でしょう。
この生命保険金はこれに使って欲しいとか、浪費する人に多く渡らないようにするとか、何か理由があって受取人指定にしたり、多少えこひいきしたりする程度なら問題なさそうです。
ただし、みなし相続財産として、相続税の課税対象にはなりますので注意です。
3.2. 特別受益にならないもの 死亡退職金
死亡退職金とは、会社が遺族に退職金を支給すると定めていれば、亡くなった方に支払われるはずだった退職金を亡くなった人の遺族が受けられるお金のことです。
これも、特別受益とはされませんが、常に、持ち戻し、つまり相続財産に含めて計算しなくてよいかというと、そういうわけでもないでしょう。
生命保険と異なり、退職金は、働いていたことから発生するもので、3つの性格があるとされています。
1つめは賃金後払い的性格、2つめは功労報償的性格、3つめは生活保障的性格といわれます。
賃金の後払いはそのままですが、後2つは会社に貢献したかどうかと、退職後の生活保障ということです。
生命保険は、ある意味意図的で計画的な贈与になるわけですが、死亡退職金はそういうわけでもなく、老後の生活保障があるので、夫が妻を遺族として受取人にしていても、それだけでは持ち戻しの対象にはならないように思います。
これも、著しい不公平になるかどうか、がポイントだと思いますが、ケースバイケースです。
難しいので、この点について明確に説明しているサイトはあんまり見つからないかなと思います。
ぜひ専門家に具体的にご相談下さい。
またこれも、みなし相続財産として相続税の課税対象にはなるので注意です。
2021年12月10日