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特別受益2 特別受益になるもの

2021/12/02
佐野 就平




弁護士の佐野です。




続いて、何が特別受益になるか、です。


目次

2.1. 遺贈
2.2. 生前贈与 婚姻または養子縁組のため
2.3. 生前贈与 生計の資本

2.3.1. 大学などの学費は?
2.3.2. 高額の大学の学費の場合は?
[家庭の状況?社会通念?]
(1) 例えば
(2) 選択肢と不公平感

2.3.3. 事業承継は?
2.3.4. 居住用不動産は?


特別受益とされるのは、次の3種類とされています。

2.1. 遺贈


遺贈とは、遺言で、私が死んだらこの人にこれをあげるよ(民法964条)、ということを書いておくことでする、贈与です。

これを特別受益に入れるというのは分かりやすいですね。
遺言でわざわざ不公平にしているのですから、それは公平にしましょうということになります。

ただし、そうなると、例えば家業を継いで欲しいといったようなちゃんとした理由があって不公平にしたいとか、あるいは、相続人の中に障がいや病気を抱えた方がいるとかで、誰かを特別扱いすることがかえって公平になる、といったようなときに、亡くなる方の気持ちを踏みにじることもあり得ます。

これをどうするかは後ほど、持ち戻し免除、というところで書こうと思います。


2.2. 生前贈与 婚姻または養子縁組のため


いわゆる生前贈与のうち、特別受益にされる類型の1つが、婚姻または養子縁組のため、というものです。

不適切な例かもしれませんが、昔の話や今でも保守的な地域にありがちなのが、嫁に出したら家には帰ってくるな、この家は長男に継がせる、だからある程度の財産を将来の相続財産の代わりに持たせるから、わしが死んだときも相続については何も言うなよ、というような感じでしょうか。

養子縁組も、例えば別の家の跡継ぎとして養子に行かせて、実の家については相続をするなよ、という感じでしょうか。

たとえが昭和すぎますか?

いいかどうかは別にして、生前贈与を受けた方が何も言う気がないなら、それはそれで問題ありません。
多額の生前贈与を受けたのに、それを棚に上げて遺産を寄こせと言い出したら、さすがに他の人はカチンときますよね。

この問題による争続は私は経験したことはありませんが、話や愚痴を聞くことはあります。
はっきりと相続財産の前渡しで相続のけりをつけさせた、という話は聞いたことはありませんが、そういう話だったはずだと一部の方が言っているということはあります。
本当かどうか分かりませんが。

そういう話が出てくるということは、はっきりと趣旨を明確にしていないということや、渡した金額が低すぎたということが原因ではないでしょうか。

まあともかく、多額の結納や持参金などの場合は特別受益となり、多額ではない挙式費用や新婚旅行費用などは特別受益になりにくいと思います。

これはケースバイケースでして、収入やら財産状況やら社会常識などにも影響されますし、どんな裁判官に当たるかやどんな弁護士を選ぶかによっても影響されると思います。


2.3. 生前贈与 生計の資本


生前贈与のうち、特別受益にされるもう1つの類型が、生計の資本というものです。
婚姻または養子縁組のためよりも、こちらの方が問題になることが多いと思います。

生計の資本といっても、これも何でもかんでもということではありません。
扶養義務の範囲程度(民法730条など)なら、特別でも何でもありません。

ちなみに、扶養義務は「生活保持義務」と「生活扶助義務」に分けられます。

例えば奥さんと子どもの生活なら、生活保持義務(民法752条など)となります。
生活保持義務とは、生活に余裕がなくても助けてあげなさいよ、というものです。

同居していない祖父母や孫、兄弟姉妹は生活扶助義務となります。
生活扶助義務とは、扶養する人の生活は普通に送っていいので、余力の範囲内で助けてあげればいいよ、というものです。


この違いは感覚的に分かりますね。
ただ、扶養の細かい話はここでは関係ありません。すいません。気になって書いてしまいました。

では、扶養を超えたら全部特別受益かというと、そういうわけではありません。
扶養というと、税法上の扶養控除や健康保険の被扶養者を思い出しますが、それとは関係ありません。

その家庭の状況で、常識や社会通念からしてその生前贈与はどうなの、という問題ですので、これまたケースバイケースです。

クリスマスプレゼントやお年玉は概ね外れますが、クリスマスプレゼントに高級外車、1000万円のお年玉となると、特別受益にされそうです。

社会通念上それは無理でしょ、というのが分かっていただけますでしょうか。


2.3.1. 大学などの学費は?


生計の資本の例として取り上げられることが多いものの1つに、大学などの学費が挙げられます。
検索すれば、どのサイトでも出てくるのではないでしょうか。

一般的に、子どもの9割が進学する高校までは、その費用は通常の扶養の範囲といえるでしょう。生活保護においても高校までは扶助が出ます。
他方、大学以上の学費の負担は特別受益になるといわれていました。

検索したら、文科省の資料が見つかりました。
https://www.mext.go.jp/content/20201126-mxt_daigakuc02-000011142_9.pdf

2019年の18歳人口の82.8%が大学、短大、高専、専門学校に進学し、うち大学が53.7%だそうです。

半数以上が大学に進学し、中卒、高卒で働く人は17.2%しかいないということになります。

大学に進学する人は、半数が奨学金(貸与、つまり借金が大半)を受けています(平成30年度学生生活調査結果、日本学生支援機構)。

高校は、奨学金を受けながら進学するよう子どもたちに指導します。
少子化で競争が少なく、大学を選ばなければ、大学生にはなれます。
親も子どもたちも、「大学くらいは出ておかないと・・・」という意識があります。


家庭の事情や社会通念からして、これが特別受益といえるでしょうか。
私は、もう違うのではないかと思います。
家庭の事情がどうあろうと、大学進学費用は特別受益とすべきではないと思います。


まあ、これは私の考えであって、それがそのまま争続で通用するかどうかは別です。
ですが、調停委員や裁判官が共感してくれれば、通用するかもしれませんね。


2.3.2. 高額の大学の学費の場合は?


そうはいっても、限度っていうものがあるでしょう。

何が限界かは「扶養の範囲」という概念で決めざるを得ませんが、その家庭の収入、資産、家族の学歴、社会的な進学状況などから総合的に判断せざるを得ません。
要するに、えいやで決めるしかないということです。

例えば、兄弟姉妹で1人だけ、高額な私大の医学部の学費を出してもらったり、大学院で研究させてもらったり、何年も海外留学をしてその費用を出してもらったりしていれば、特別受益になるかもしれません。

またまた検索していると、名古屋高等裁判所令和1年5月17日決定を発見しました。
この決定は、学費、留学費用等の教育費については、被相続人の生前の資産状況、社会的地位に照らし、被相続人の子である相続人に高等教育を受けさせることが扶養の一部であると認められる場合には、特別受益には当たらない、としたものです。


この決定では、大学院の学費や留学費用は特別受益に該当しないとしました。しかも、仮に特別受益に該当するとしても、明示又は黙示による持戻免除の意思表示があったとしました。
これは相続財産に含めて考えなくていいですよ、ということです。

気になる方は検索してみてください。大事なのは、家庭の状況によっては結論が変わるということです。

[家庭の状況?社会通念?]

話がそれ続けますが、書きたいので続けます。

家庭の状況や社会通念などで判断するしかないわけですが、例えばこんなケースはどうでしょうか。

(1) 例

例1

東京の家庭で、頭のいいお兄ちゃんは、徹底的に節約し、予備校にも通わず、参考書だけで現役で学費の安い東大に合格しました。

弟は学力が低く、金をかけて予備校にも通わせ、何年も浪人し、やっとこさ高い学費の地方の私大に合格し、下宿費用も出してもらいました。

その差額は1000万円です。


まあ、確かに特別受益っぽいですが、お兄ちゃんはそれを言うでしょうか。
そこまでしないと大学に行けなかった弟がかわいそう、と思ったりしそうです。

例2

家の仕事を継ぐために、お兄ちゃんはお金をかけて専門の大学に入らされ、家を継ぐことになりました。

弟は自由にさせてもらい、あんまりお金をかけずに大学に行き、自由に就職し、それなりの給料をもらうようになりました。

その差額は1000万円です。

これも、確かに特別受益っぽいですが、弟はそれを言うでしょうか。
人生を縛られた感があるお兄ちゃんがかわいそう、と思ったりしそうです。



例3

学力が低い兄弟姉妹の仲で、末っ子の妹だけがとても頭が良く、私大の医学部に進学しました。

他の兄弟姉妹は、端っから大学進学を諦めて、高卒で就職しました。

その差額1000万円です。


これも、確かに特別受益っぽいですが、他の兄弟姉妹はそれを言うでしょうか。
兄弟姉妹の自慢の妹だ、と思ったりしそうです。

これらは、特別受益で紛争になるでしょうか。私はならないのではないかと思います。

(2) 選択肢と不公平感

あくまで私見ですが、家庭の状況とか社会通念とか色々言ったところで、選択肢が与えられているか、不公平感があるかが紛争発生のポイントだと思います。

双方争っているので、事後的に判断するには、家庭の収入やら資産やら親や他の兄弟姉妹の学歴やら社会の状況やらを持ち出さざるを得ない、ということです。

全員に大学進学の選択肢が与えられていて、自分だけが合格しなかったなら、ある程度差が生じようと、それは特別受益とすべきではないように思います。
紛争が生じるのは、基本的には不公平感があるからです。

個人的には、進学費用が特別受益に当たるかどうか、という議論は好みません。不公平かどうかで判断したいところです。

2.3.3. 事業承継は?


おばあちゃんの家の話からそれ続けますが、これも触れておかないといけません。


事業承継はどうなの?ということですが、これは一般的には特別受益になります。
事業を継いで収入を得る、その財産をもらうのですから、文字通り「生計の資本」ですよね。
財産は、会社なら株式、個人事業主なら土地建物や設備といったところになります。

全国的に事業承継は社会問題となっていますが、100年企業が多い京都でももちろん大問題です。

自分の代で潰えるわけにはいかないと、みんな必死でしょう。
お金の問題より跡継ぎを見つけるのが大問題なのです。
相続対策まで頭が回るかどうか疑問です。

ところが、跡継ぎを見つけて一安心した後、亡くなってから特別受益だ~!と言われ、紛争になってしまいます。


職人が腕だけで仕事をするなら、せいぜい道具くらいが財産なので、特別受益だと言われても大したことはありません。そもそも言われもしません。

工場があったりなどすると、それを売却しないと遺産分割できないということになり、事業の残しようがありません。

これは跡継ぎ側ではどうしようもありません。亡くなる方が、生前にきちんと対策を立てておかなければ、避けようがありません。

けちって専門家に相談せずにやっても、ぐちゃぐちゃになるのは目に見えています。ぜひ専門家に相談しましょう。

2.3.4. 居住用不動産は?


やっとおばあちゃんの家の話にたどり着きました。


居住用不動産をあげれば、それは特別受益になります。
これも文字通り、「生計の資本」です。

しかし、おじいちゃんがおばあちゃんに自宅をあげた場合、特別受益には当たるものの、相続財産に戻して計算しなくていいですよ、ということになりました。(民法903条4項)

これですこれです、これが言いたくて、色々と遠回りしたわけです。
ただ、特別受益にならないものについても触れなければならないので、それに触れてから、上の話の続きを書きたいと思います。

2021年12月2日

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