弁護士の佐野です。
養育費とは直接関係はないのですが、民事執行法の改正について触れておきたいと思います。
直接強制をするためには、相手がどこに財産を持っているかが分からなければなりません。
差し押さえようとする以上、「どこに」「何を」というのがはっきりしていなければならないからです。
「差押えをしたいので、裁判所で調べて下さい。どこかに預金を隠しているんです」は通りません。
「裁判所は助けてくれないんですか?悪いやつの味方ですか?」と言いたくなるのは分かりますが、国や警察や裁判所が調べてくれるわけではありません。
振り込め詐欺の被害では警察は多少助けてくれますし、犯罪被害者給付金制度というのもあるのですが、残念ながら、基本的には国は弱者に冷たいと言えるでしょう。
「どこに」「何を」というのをはっきりさせるのは、自分しかないんです。要は自腹です。
しかし、財産を把握していても、銀行口座が変えられていたり、転職されていたりすると、お金をかけて調査する余裕がない人は困難でした。
逃げて行方不明だとなおさらです。このことは、養育費に限りません。
財産開示手続というものもあるのですが(民事執行法196条以下)、強制執行したいから、相手本人に、「お前の財産がどこにあるか教えろ」、という制度です。
取られる人に、取られるものはどこにあるのか教えろと言ってもねえ。
一応、言わなかったり、嘘を言えば、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金にはなるのですが(民事執行法213条1項6号、199条)。
そこで、2020年4月、改正民事執行法が施行され、第三者からの情報取得手続(民事執行法204条以下)というのが創設されました。
第三者に教えろというのですから、隠す動機はありません。
裁判所が命令を出す以上、プライバシーも関係ありませんし、そのまま出すしかありません。
第三者とは、登記所、市町村、年金事務所、銀行などです(民事執行法205条、206条、207条)。
要件は、財産開示手続ができる場合と変わりません(197条1項1号、197条1項2号)。
とりあえず、判決か審判か調停か、あるいは強制執行認諾条項付きの公正証書があればいい、と思っておきましょう。
あの人は不動産をここに持っています、ここで働いているという税金の記録があります、ここに口座がありますなど、色々と出てくると、取り立てやすくなります。
養育費との関係で言えば、諸外国と比較すると、養育費取り立ては自分でやれという姿勢の日本では、多少使い勝手が良くなったところでどうなの?という見方もあるようです。
海外では、離婚するときには養育費を定めないといけないことになっていたり、行政が取り立てたり、給料から天引きするよう雇用主に義務づけていたりする国もあります。
法務省 父母の離婚後の子の養育に関する海外法制調査結果の公表について
少しずつでも進んでいかないと、ひとり親世帯の窮状は改善されません。
他の社会保障も含めて、よりよくなることを期待します。
2021年11月30日