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相続放棄の注意点

2021/10/31
カテゴリー: 相続放棄 タグ: 単純承認相続放棄






弁護士の佐野です。




今回は相続放棄について書こうと思います。長くなりますがお付き合いください。



1 相続放棄


相続放棄」という言葉には、皆さん結構なじみがあるのではないでしょうか。

何もかも全て相続しません、という制度で、家庭裁判所にそう申述することで効果が発生します(民法938条)。「申述」というのは法律の文言で書いてあるのですが、誤解を恐れずに言うと、「届出」の感覚に近いでしょう。



2 相続放棄の効果


相続放棄を申述すると、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。「その相続だけ」なので、例えばお父さんが亡くなって相続放棄しても、お父さんの財産を相続したお母さんが亡くなったときには、改めて相続できます。



3 相続放棄しても一定の義務あり


ただし、相続放棄したら全ての義務から解放されるというわけではありません。他の相続人が遺産の管理ができるようになるまで、自己の財産と同じように注意を払って管理しなければなりません(民法940条)。



4 相続放棄の問題は単純承認の裏返し


実は、相続放棄はこの3つの条文が定められているだけですが、そう簡単にはいきません。それが、単純承認という制度です。



5 「無限」の相続


単純承認とは、相続することを承認するというものです。権利義務を承継するのですが、「無限に」というのがミソです(民法920条)。

「無限に」なので、知らない資産も借金も全て承継してしまいます。

借金についてはあちこちのサイトで、「どこで借金しているか分からないので怖い」といった注意喚起がされていますので、ご存知の方も多いと思います。

それだけでなく、例えば資産に類するようなもので、知らない銀行預金、知らない投資信託といったものであれば、発見されればラッキーということになります.

しかし、売れもしない田舎の土地なら将来固定資産税がかかるとか、他人に被害を及ぼすような老朽化した家なら解体費用がかかるとか、そういう可能性もあるんですよね。


遺産をきちんと調査して、評価して、相続放棄をするかどうか検討することをお勧めします。



6 相続放棄ができる期間制限


遺産を調査するにしても、いつまでにやればいいのでしょうか。

実は、法定単純承認という制度があり、期間が原則3ヶ月と定められています(民法921条2号、915条1項本文)。

「原則」というからには例外がありますが、それは2つです。


(1)「知ったとき」


1つ目は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から」という条件です(条件であって、正確には「例外」ではありませんね)。

「自己のために相続の開始があったこと」というのは、自分が相続人になることを知ったとき、という意味です。

相続は、たいてい近しいご家族で起こることですので、

ご家族が亡くなったとき=「知ったとき」

となります。

これに対して、国際結婚などで遠く離れた人、ご両親の離婚などで縁が切れてしまった人、相続人が相続放棄をして玉突きで相続人になった人などは、

ご家族が亡くなったとき≠「知ったとき」

となることが多いです。

この場合、「知ったとき」については難しい問題が発生することもあり、裏技的なことも含めて慎重な判断が必要なことがあります。こういうときはぜひ弁護士に相談されることをお勧めします。



(2)期間伸張


2つめは、期間そのものを伸ばすことです。利害関係人は、家庭裁判所に申し立てて、この期間を伸長することができます(民法915条1項但し書き)。

3ヶ月ごとに伸張することが可能ですが、延々と伸ばせるわけではありません。


近しい人が亡くなって、3ヶ月では到底調査(民法915条2項)なんてする気持ちになれないとか、財産が多すぎて時間がかかる、といったようなことが想定されていますので、伸ばして半年というのをメドにするといいと思います。



7 もっと難しい問題


期間に間に合わなかった!というのも問題ですが、これは間に合うかどうかの問題で、上記の「弁護士に相談をお勧め」と書いているもの以外は、難しいということはありません。

(1)取り返しがつかない行為


6では、法定単純承認について、期間制限があると書きました。期間を過ぎれば、単純承認をしたとみなします、言い訳は聞きません、ということになります(民法921条柱書)。

みなされるのは3パターンあり、その1つが期間制限でした。

別のパターンは、処分行為をしたときです(民法921条1号)。

処分をしても、それが保存行為ならOK、短期賃貸借(民法602条)ならOK、と定められています。

これがまた難しい問題でして、単純にこれはOK、これはNGと判断できるものではありません。

経験や知識に基づくノウハウはここでは書けませんが、一般論で言うと、一発アウトのみならず、相手に追及されるかどうか(後ほど触れます)というリスク判断を伴うからです。

これくらいいいよね、これはしてあげないとかわいそう、と他人のために善意でやってあげたことでも、それによって、相続放棄が認められなくなってしまいかねません。

何かするおつもりでしたら、事前に必ず弁護士に相談されることをお勧めします。



(2)財産隠しなど


法律では、「限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。」としています。

長文ですが、面倒なので引用しました。

要するに、相続放棄をしておきながら、財産をちょろまかしたらダメでしょ、というものですね。これは難しくはないと思います。



8 相続放棄が問題となる場面

(1)依頼して金を払わずに、まずは自分でできないか考えよう!


上記では、私は、「弁護士に相談されることをお勧めします。」と書きましたが、実はこの意味は限定的でして、相談することはお勧めしますが、依頼することは積極的にはお勧めしません

自分で相続放棄の申述をする実費としては、せいぜい5000円程度で済みます。

書式も、「家庭裁判所 相続放棄 書式」で検索すれば出てきますし、表裏1枚で済みます。

役所で書類を集めて提出すればいいし、事前に電話すれば何を集めればいいかも分かります。

とても簡単な手続きなんですね。

相談はぜひすべきです。

しかし、大半のケースでは依頼まではする必要がありません。

面倒だし費用がかかってもいいからお願いしたいとか、これは将来揉めるかもしれないからお願いしたいとか、特に理由がある場合でなければ、依頼費用は無駄金です。

ですので、相続放棄専門という法律家(弁護士に限らず)に依頼するのは、ぼったくりの可能性もあり、とても危険ではないかと思います(みんながみんなそうだとは思いませんが)。

私は、相続放棄でご相談されたら、「ご自分でも簡単にできますよ、私に依頼すると無駄にお金がかかりますよ」と必ず言います。

それでもいいからよろしく、と言われたら、ほんとにいいんですかと念押ししてご依頼を受けます。

本来、その程度の話なんです。

借金が多くて、相続人がみんな相続放棄してそっぽを向いて誰も相続人がいないということになったら、

  • 少しでも借金の回収したい人は、自分で金を出して相続財産管理人を選任するよう家庭裁判所に請求しなさいよ(民法952条1項)。
  • 借金と財産を清算して、残ったら国がもらいますよ(民法959条)。


という手続きが残っているだけです。

よほど有名な大金持ちが相続人も遺言もなしで亡くなったら、検察官がやってくれることもあるんでしょうが、普通は、債権者が少しでも回収したいということでやるしか考えられません。

ほったらかしの遺産は多いと思いますし、だから空き家問題ということになったりしているわけです。

相続放棄の申述は、面倒な問題から逃がしてあげますよという手続きなんですよ。

本来、得をしようという話ではないので、財産隠しでもない限りはあまり問題にならないのです。



(2)何が問題となるの?


冒頭の1で、「家庭裁判所にそう申述することで効果が発生します」と書きました。

審理もされていないのに、効果が発生するわけです。

逆に言えば、審理が残されていることになります。

つまり、相続放棄は、異議のある人は後で争ってね、という制度だということです。

上記色々書きましたが、要するに、後で争われることを想定して相続放棄をしなければならないということです。ここに、弁護士に相談する意義があるわけです。

相続放棄の申述について弁護士に依頼するのではなく、申述した後に想定される争いを避ける、あるいは争いをふっかけられたときのために(ふっかけられたら、でもいいのですが)依頼する、というのが正解です。

そこを履き違えると、専門家に依頼して相続放棄をしたのに訴えられた!ということになりかねません。

この相続遺言サポート協会を設立したのも、相続放棄専門と名乗る専門家がいることに危惧を抱いたからでした。

そんなもの、本来あり得ません。

相続の問題を分析し、その結果として相続放棄するのはどうか、という流れなのであって、相続放棄したい人を集めようというのは胡散臭さしか感じません(良心的な方々ごめんなさい)。

相続放棄自体は自分で安くすればいいのです。

相続放棄しても、後で揉めない、訴えられないようにきちんと計画するよう、弁護士に相談されることをお勧めします。

2021年10月31日

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