弁護士の佐野です。
今回は、離婚届を出す場合の注意点について説明したいと思います。
今回は弁護士から見た注意点ですので、一般的な制度の説明は他のサイトで検索してください。詳しく丁寧に説明してくれています。
ここで強調したいのは、事前に役所に確認しておきましょう、ということです。これからそれを説明しますね。
目次
1. 協議離婚の場合
1.1. 詳しい書類は?
1.2. 不受理申出
2. 調停・裁判離婚の場合
3. 離婚後の氏はどうする?
4. 離婚後の子の戸籍と氏
5. まとめ
1. 協議離婚の場合
協議離婚は、夫婦双方の合意で離婚届を作成して提出する場合のことを言います。
当たり前ですが、離婚は届け出なければなりません(民法764条が準用する739条)。
夫婦双方の合意で離婚届を作成して提出する場合、そのまま提出すればいいです。
この場合、離婚届の届出日が離婚日になりますので、提出期限はありません。
ここで、実際に離婚届を持って行って、誤記があったり誤解があったりしたら、と想像してください。
円満に仲良く離婚できる人は少数派ではないでしょうか。弁護士は職業柄、紛争になっているものしか扱いませんので、偏見かもしれません。
でも、少なくとも、二度と顔も見たくないとか、二度と話し合いをしたくないとか、そういう方は多いのは間違いないのではないでしょうか。
離婚届を書き直して欲しいとか、もう一度この点で話し合いたいとか、考えただけで憂鬱になるのではないでしょうか。
少なくとも、気分のいい話ではないでしょう。ひょっとして、やっぱり気が変わった、なんてことになることもあり得ない話ではありません。
そうならないよう、どんな書類が必要か確認したり、書く前に下書きを持って行って確認してもらったりするといいでしょう。窓口では親切に教えてくれるはずですし、必要書類の確認くらいなら電話の問い合わせも可能です。
離婚届は郵送でも提出できますが、郵便で届けを出す場合はなおさら確認しておくべきでしょう。
また、本籍地と違うところで提出したりする場合も、追加書類について、事前に確認しておくべきです。
1.1. 詳しい書類は?
ここでは、どんな書類が必要か、詳しいことは説明しません。役所のホームページや電話、窓口で確認してください。と言いますのも、きちんと確認していただきたいからです。
どこかのサイトで調べたことは、ほぼ間違いないでしょう。問題は、わずかでも例外が存在するかも、ということです。離婚届の提出に誤りがあっては、先ほどのようなことになってしまいます。
連れ子がいて結婚と同時に養子縁組をしていたりとかいう場合、案外複雑です。離婚届に慣れている人はそうそういないでしょう。どんなケースでも確認しておくことをお勧めします。
1.2. 不受理申出
離婚届には、不受理申出という運用があります。
以前、勝手に離婚届を提出したために、有印私文書偽造・同行使、電磁的公正証書原本不実記録・同供用の疑いで逮捕された、という事件もありました。
勝手に離婚届を提出することが罪になるからといって、全部なかったことになるというわけではありません。勝手に離婚届を出されたけど、この際いい機会だからOKにしよう、なんてこともあるわけです。
これを追認と言います。
また、真正に作成された離婚届なのに、勝手に作成されたと、後になって主張しているだけかもしれません。
第三者から見れば、離婚届自体には不備はなく、言った言わないの話になってしまうので、判断しようがありません。
裁判になっても、真実は真正なのに、勝手に作成したものだと、裁判官が誤った判断をしてしまうこともあり得ます。
そのため、サイトを検索していただければ、勝手に離婚届を出されたのに、「離婚届は無効になる可能性がある」という書き方をしていることが多いのではないでしょうか。
弁護士としては、断定的には書けないんです。
結局、勝手に提出された離婚届でも、いったんは有効なものとして扱われてしまうため、戸籍上はそのとおりに反映されてしまいます。
それを元に戻すためには、面倒な手続きを経なければなりません。
まずは、協議上の離婚の無効確認の調停を家庭裁判所に申し立てます。
合意が整えばいいのですが、整わない場合、裁判を起こさなければなりません。
勝手に離婚届を出すくらいですので、簡単には合意してくれないでしょう。
結局は、ガチで争って勝訴して、ようやく離婚無効の届け出ができることになります。
これはかなりの手間暇です。私も依頼されればやりますが、一方が離婚したがっているから離婚届を勝手に出すということをしたわけです。
元に戻したところで夫婦関係が良くなるわけもなく、ほんとに後ろ向きの手続きでお金をもらことになり、心苦しいです。
不毛極まりありませんので、絶対避けるべきです。
そこで、不受理申出という制度があります(戸籍法27条の2第3項)。
私を本人とする届け出がされても受け付けないでくださいね、という制度です。これは届出の日から効力が発生します。
この問題は離婚届に関わりませんので、婚姻届、養子縁組届などといった他の届出でも使えます。勝手に出されそうな危険があるときは、この制度の利用を検討しましょう。
2. 調停・裁判離婚の場合
調停離婚、裁判離婚の場合でも、届け出なければなりません(民法764条が準用する739条)。
この場合は、協議離婚とは違い、確定してから10日以内に提出しなければなりません(戸籍法77条1項が準用する63条)。これが結構厳しいので注意です。
調停は、調停成立日が確定日になるので、その日から10日以内です。
家庭裁判所が離婚届出用の調停調書謄本(抄本)というものを作成してくれるのですが、調停成立日に即座に渡してくれるわけではありません。
私の経験では、特殊な事情があるときに、裁判官を説得して半ば強引にその日に渡してもらったことがありますが、それでもしばらく待たされました。
調停成立→調書送付→離婚届提出、という流れになるので、郵便事情などによっては数日かかります。
弁護士を入れて入れば、弁護士に調書が送付され、その後本人に渡されるので、その間のタイムロスがあります。
さらに、郵送で離婚届を出す場合、さらにタイムロスが生じます。
そうなると、10日というのはかなり短いことになります。
裁判は、離婚を認める判決が出され、当事者に判決が送付され、それを受け取ってから2週間以内に控訴されない限り、判決が確定するという流れになります。
判決が出されてから郵送、それを相手方がいつ受け取るか分からない、そこから2週間ということになりますので、不確定要素が入っています。
判決が確定したら、判決確定証明というものを家庭裁判所でもらうことになります。
そろそろ確定したかな?というタイミングで判決確定証明を申請し、それをもらうことになるので、そこにタイムロスが生じます。
その後の流れは調停と同じですが、どちらも10日以内というのは結構慌ただしいので、心の準備が必要です。
この場合も、事前に届出書類などを役所に確認しておくのが大事です。
3. 離婚後の氏はどうする?
「バツイチ」という言葉を広めたのは明石家さんまさんだということだそうです。
私も、額に×印を書いて記者会見されたのを覚えています。
さすがさんまさん、おもしろい表現です。
離婚にはマイナスイメージが強いと思いますが、それを緩和したのではないでしょうか。
このバツイチ、離婚して戸籍から出て行った方の欄に大きく×印をつけていたため、そう表現されました。
現在では戸籍が電子化されており、履歴として記載されるので、×印が書かれることはありません。
古い戸籍を取り寄せたりすると書いてあります。
ここで、このバツイチは、戸籍の筆頭者から見たものというのがミソです。
一般的には夫の戸籍に妻が入ることが圧倒的に多いので、便宜上それを前提にします。
離婚した場合、戸籍の筆頭者である夫は、戸籍から妻が抜けるだけで、自分の欄に変更が生じることはありません。
戸籍の筆頭者でない妻は、戸籍から出て行くので、新戸籍を編成するか、従前の戸籍(一般的には実家のお父さんの戸籍が多いでしょう)に戻るかの2択になります。
戸籍の電子化以前でも×印はつかなかったんですね。
妻は、離婚をすると婚姻前の氏に戻るのが原則です(民法767条1項)。
婚姻前の氏に戻る場合は、従前の戸籍に入るのが原則です(戸籍法19条1項)。
結婚していたときの氏をそのまま使いたいときは、離婚の日から3か月以内に本籍地又は所在地(住所又は居所)にある役所に届出をするだけでOKです(民法767条2項、戸籍法77条の2)。
戸籍上は、氏の変更をしましたと記載されます。
その後、やっぱり旧姓に戻したいと思っても、家庭裁判所に氏の変更許可審判を申し立てて、仕方がないと認めてもらって許可をもらわなければなりませんので、慎重に考えましょう。
4. 離婚後の子の戸籍と氏
ここでは、夫の戸籍に妻が入っていて、離婚して妻が夫婦の子の親権を取得した場合について説明します。
親権者がどちらになろうと、実は子の籍は、夫の戸籍に残ったままになっています。
夫が親権を取得した場合は、何もする必要がありません。
子の籍を妻の戸籍に移すには、子が15歳未満の場合には妻が、子が15歳以上の場合には子本人が、家庭裁判所に子の氏の変更許可審判(民法791条1項)を申し立てなければなりません。
許可されたら、その審判書謄本をもらって、役所に子の入籍届出をすることになります。
氏の変更と子の入籍がセットになっているのは、戸籍法18条2項で、父の氏を称する子は父の戸籍に入り、母の氏を称する子は母の戸籍に入る、と決められているからです。
家庭裁判所の審判で許可を得なければならないと聞くと面倒なようですが、実際には右から左で許可が下りると思います。
このあたりは、受任した事件の場合も依頼者ご本人がされていて、私も経験がないので、ちょっと不確かですが、多分そうでしょう。
5. まとめ
以上、離婚届提出の注意点でした。
他にも注意点はあると思いますし、くどいようですが、必要書類などは裁判所や役所などの公式サイトで確認するとか、電話や窓口で確認した方がいいです。
最後の最後でつまづくと、案外面倒ですし、がっかり感が精神的負担も増やしますし、相手との無用な関わりも出てきかねません。
弁護士も、事件終了後の手続きで、普通は関与しませんし、紛争でもないので、細かいところまではきちんと押さえ切れていないところです。
最初の方で、「連れ子がいて結婚と同時に養子縁組をしたりとか、案外複雑です」、と書きましたが、これは実は実例に基づくものです。
窓口で教えてもらえばすぐ分かる話でしたが、事前には思い付かなかったという苦い経験でした。
まあ、複雑だと分かったというだけで、新たな紛争になるといったことではなく、実害は生じないので良かったのですが。
みなさん、役所で確認するというのがとても大事です。なんせ離婚は、戸籍にどう記載されるかの問題に尽きます。それは、役所が一番詳しいんですから。そこに至るまでの問題は、弁護士にご相談ください。
2021年9月21日